書評「会計士が転職を考えたら読む本」

私は公認会計士であり、公認会計士という武器を活かして社会に貢献していきたいと考えています。これまで公認会計士としてキャリアを形成する中で悩みながら自らの道を切り開いてまいりました。そんな「公認会計士のキャリア」について書かれた書籍を紹介いたします。

(1)著者桑本慎一郎さんの紹介

桑本慎一郎さんは、公認会計士であり、会計士専門の転職エージェント㈱ピー・シー・ピー(以下「PCP」)を運営されています。会計士が適材適所で活躍するためのインフラとして活動し、これまで累計1,000人以上の会計士の転職のサポートをされてきました。
また、会計士専門のキャリア情報サイト「会計士の履歴書」をリリースし、多様な会計士のキャリアを掲載しています。

桑本さんのこれまでの活動は、過去ご自身が「あったらいいのに」と思ったサービスを現在ご自身が提供しているものになります。
ご自身が人生最初の転職活動をする際に、当時会計士のことをよく知る転職エージェントは世の中にはおらず、相談できる人がいませんでした。
会計士の転職は会計士のことをよく知る人に相談するのがよい、ということで、「会計士の会計士による会計士のための転職エージェント」としてPCPを立ち上げ、活動されています。

そんな桑本さんと私の出会いは2018年、「会計士の履歴書」をリリースされる際に、掲載者としてお声がけ頂いたのが始まりです。
また、PCP主催のセミナーに登壇させてもらったり、「会計士の履歴」掲載者の集まりに呼んでもらったりしている間柄です。

(「会計士の履歴書」掲載者による2019年新年会、私は最後列右の方)

(2)本書の紹介

桑本さんが先日出版されたのが、本書「会計士が転職を考えたら読む本」です。書名の通り、転職を考え始めた会計士をターゲットに書かれています。特に監査法人(会計士の9割がファーストキャリアに選ぶ仕事)から転職を検討している、年齢30歳くらいの方を想定していると思われます。

・会計士としてのキャリアをなぜ考えるべきか
・どのようなキャリアの選択肢があるか
・職務経歴書や面接のポイントといった実用編

等、10年にわたって1,000人以上の会計士の転職サポートをされる中で受けた会計士のお悩みに1つ1つ応えるように、本書は綴られています。

(3)自分の10年前を振り返る

本書が10年前に出版されていたとしたら、10年前の私はまさに本書のドンピシャターゲットでした。
私は2012月2月に、監査法人から会計コンサルティング会社に人生初の転職をしており、10年前の今頃(2011年7月頃)はまさに転職を考え始めた30歳の会計士でした。
当時は会計士の転職エージェントはおらず、確かに私も会計士のことに詳しくない転職エージェントにキャリアの相談をしていました。
私のキャリアチェンジは今から振り返っても素晴らしい意思決定をしたと胸を張って言えますが、転職というのは人生の岐路に立つ局面ですので、今から10年前を振り返ると、当時桑本さんや本書のような存在があったなら、大変心強く感じたことでしょう。

(4)公認会計士のCFO志望

PCP調べでは、監査法人からの転職先の約4割が事業会社とのことです。また、本書によると、事業会社への転職を考えている会計士の8割が「将来的にはCFOになりたい」ということです。
CFOを志望する会計士が増えていますね。私の回りでも、CFOを務める会計士が増えていると実感しています。とても喜ばしいことだと感じています。
公認会計士というのは、企業の財務諸表を監査することを独占業務とする(唯一認められている)国家資格であり、会計のプロフェッショナルです。
会計に強いことや専門性に加えて、ビジネスマインドやマネジメント能力、バランス感覚が求められるCFOというキャリアを、より多くの方が目指すというのは、社会・ビジネスの世界での公認会計士の価値がより向上していくことになるのではないかと期待しております。

(5)公認会計士の市場価値向上

本書では、会計士も自身の市場価値を向上させるための不断の努力が必要であり、そのために大事なことが、「セルフブランディング」と「レコード」と説いています。
セルフブランディングについては、会計士であること以外に自らの強みを見つけ、磨いていくことで、「会計士 × ◇◇」の「◇◇」を確立する。
「レコード」は実績ですね。他の会計士から抜きん出るもの。誰もが簡単に作れないレコードを作れるに越したことはないが、難易度やかける時間との兼ね合いで、リスクとリターンのバランス感覚を持つことが重要と仰っています。

この点は私自身大いに共感をもったところです。私も独立開業にあたっての自らのポジショニングを強く意識しました。私は、

会計士 × CFO × アウトドアビジネス

と定義しています。「会計士 × CFO」という人材は近年増えてきている印象があるのでこれだけでは弱いと感じ、「× アウトドアビジネス」とすることで、独自のポジショニングを確立していきたいと考えています。

(6)本文中の一番のお気に入り

本書の中で、私が一番好きな記述が、「おわりに」にあります。紹介します。

キャリア形成とは究極的には「自分の人生をどう生きていたいか」を考えることだ

桑本さんは、転職エージェントとして人生の岐路における決断の相談を受けられてきました。
私が思うに、結局自分が人生をどうしたいかが重要なのだと思います。人生の目標、目的は何なのか、かっこつけた言葉でいうと、”志”は何なのか、次第だと解釈しています。

この点も私自身、今回独立開業をするにあたって大いに自分に問いかけて時間をかけて考えたところであります。
私自身は、

・企業経営をファイナンス面から支える仕事にやりがいを感じてCFOのキャリアを歩んできた
・「豊かな自然の中での非日常体験が人生を豊かにする」と価値を信じている

ことから、今後「アウトドアビジネスの健全な発展に寄与する」ことを志にし、「そとビジネスをそとから支える財務プロフェッショナルになる」ことを目標に掲げております。

(7)最後に

私は公認会計士という資格が大好きですし、誇りをもっています。私のキャリアの中心に位置する存在であり、私の大きな武器であることは間違いないです。公認会計士は社会の中でより注目され、尊敬を受ける資格であってほしいと願っています。多くの方に目指してほしいです。

そんな私以上に、桑本さんは会計士のことを愛されていると感じます。「おわりに」の最後の文章を紹介します。

会計士業界は、決してコミュニケーション能力が高い人が多い業界でも、政治力が強い人が多い業界でもありません。しかし、どこの業界よりも誠実で真面目で他者のために何かをしてあげたいと考えている人が多い業界だと思います。

どちらかというと流暢というよりは朴訥な印象ながらも、いつも相手に対して真摯に向き合う桑本さんがこのように仰ると、とても説得力があります。最後に爽やかな気持ちにさせて頂いた一文でした。

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することを自らの使命としている。

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