スキー場営業に影響を与える降雪 と 注目すべき天気予報

2023年のゴールデンウィークが明け、国内ほとんどのスキー場で営業終了しました。2022-2023シーズンが終わりを迎えようとしています。

スキー場の来場者数は、今シーズンどうだったでしょうか。中期的にはどのように推移しているでしょうか。
また、スキー場地域の降雪量は、今シーズンどうだったでしょうか。中期的にはどのように推移しているでしょうか。
そして、スキー場の来場者数は降雪量とどのような関係があるのでしょうか。

スキー場運営会社のCFOを務めた経験を有し、また気象予報士の資格を有する筆者が、スキー場来場者数と降雪量の関係について分析します。

さらに、スキー場事業者が知るべき天気予報についても、その精度の独自検証とあわせて解説します。

(本記事は約14,000字あります。読み終えるのに15分ほどかかります。)

(1)スキー場の来場者数の動向


今シーズン2022-2023シーズンは、新型コロナウィルスも収束に向かい、新型コロナウィルス流行後初めて緊急事態宣言・まん延防止措置重点措置の適用がないシーズンとなりました。

関東在住の筆者も今シーズンは、群馬、新潟、長野、岐阜、滋賀の各地スキー場でスノーボードを楽しみました。コロナ禍前の賑わいを少しずつ取り戻しつつあると肌で感じたところです。
特に、白馬や越後湯沢といった地域では外国人ユーザーの割合が増えていると実感しました。諸外国から日本への渡航規制がまだ残っている現状ですので、今後規制がより緩和または撤廃されることになれば、ますますスキー場に外国人ユーザーが戻って来ることを期待しています。

①2021-2022シーズンまでの索道利用者数推移


スキー・スノーボードを楽しむユーザーの数はどのように推移しているのでしょうか。

スキー場への来場者数の推移を調べました。国土交通省索道利用者統計より集計しています。

都道府県ごとに(北海道は道内運輸局別に)2007年度(2007-2008シーズン)~2021年度(2021-2022シーズン)の推移をとりました。
対象とした地域は、利用者数上位6地域を選定しました。

数字は年間の索道利用者数です。概ねウィンターシーズンの傾向を示しているものと推定して年間データを本分析に使用しています。なお、2021年度索道利用者数の構成比は、第4四半期(1月~3月)が78%、第3四半期+第4四半期(10月~3月)が93%となっており、利用の大部分がウィンターシーズンにおける利用となっていることがわかります。

【索道利用者数の推移】
(出典:総務省『鉄道輸送統計』)

【2021年度索道利用者数都道府県構成比】
(出典:総務省『鉄道輸送統計』)

長期的にみて、索道利用者数は減少傾向にあります。
年間索道利用者数は2007年度に約4億人であったところ、2020年度においては約2億人まで減少し、2021年度においては増加に転じたものの約2億4,000万人であり、2007年度比で6割の水準まで減少しています。

なお日本生産性本部の『レジャー白書』によると、スキー・スノーボード人口は1993年の1,860万人をピークに減少傾向が続き、2021年には280万人まで減少しています。

索道利用者数推移を都道府県別に見ても、多くの都道府県で減少傾向が見られます。
その中で例外的に北海道札幌運輸局については、コロナ前数年間においては若干の増加傾向が見られました。これはニセコを中心にインバウンドユーザーの増加が影響しているものと考えられます。

鉄道輸送統計においては2022年度(2022-2023シーズン)の結果は未発表です。こちらは例年9月頃に発表となるので、そこまで待ちましょう。

次に、各エリアで見ると、2022年度(2022-2023シーズン)の来場者数が発表されているエリアもあります。以下見ていきましょう。

②白馬エリアはコロナ禍からの回復が進む


白馬村については、白馬村のスキー場(4か所)の来場者数を白馬村が公表しています。
また、日本スキー場開発株式会社が運営する白馬エリアのスキー場(4か所)の来場者数を同社が公表しています。さらに、白馬エリアの10スキー場が共通チケットを発行して連携するHAKUBA VALLEYの来場者数を、一般社団法人 HAKUBAVALLEY TOURISMが公表しています。

【白馬村スキー場来場者数の推移】

(出典:白馬村HP、日本スキー場開発㈱IR資料、一般社団法人 HAKUBAVALLEY TOURISM活動報告書)

2019年度(2019-2020シーズン)以降のコロナ禍において来場者減少が進んでいましたが、2020年度(2020-2021シーズン)に底を打って増加に転じ、2021年度(2021-2022シーズン)・2022年度(2022-2023シーズン)は前年比増加を続けています。

2022年度(2022-2023シーズン)は概ね2019年度(2019-2020シーズン)の水準まで回復を見せています。
白馬は海外スキーヤー・スノーボーダーに人気の高いエリアです。今後はインバウンドが本格的に復活することが予想されるため、来年度2023年度(2023-2024シーズン)においてはコロナ禍前の水準まで回復が期待されます。

③岐阜エリアは営業日数減少の影響を受ける


岐阜エリアについては、同エリア及び西日本で最大規模を誇る高鷲スノーパーク&ダイナランドの来場者数を、運営会社である中部スノーアライアンス株式会社が公表し、また、めいほうスキー場の来場者を、運営会社である日本スキー場開発株式会社が公表しています。

【高鷲スノーパーク&ダイナランド、めいほう来場者数の推移】
(出典:中部スノーアライアンス㈱プレスリリース、日本スキー場開発㈱IR資料)

これらのスキー場はコロナ禍からの回復傾向にありますが、昨シーズン2021年度(2021-2022シーズン)と比較すると2022年度(2022-2023シーズン)の来場者数は若干減少しています。

これは、シーズン初めの降雪の状況やシーズン終盤の融雪の状況に違いがあったためと推測されます。営業日数が高鷲スノーパークで144日→127日、ダイナランドで125日→110日、めいほうスキー場で113日→108日、それぞれ今シーズンが昨シーズンと比較して短くなっていることが影響していると思われます。

④但馬エリアは雪不足や3月の営業終了前倒しの影響


兵庫県の但馬エリアについては、但馬地域の来場者数を兵庫県が公表しています。

【但馬地域スキー場来場者数の推移】

(出典:兵庫県HP)

昨シーズン2021年度(2021-2022シーズン)と比較すると2022年度(2022-2023シーズン)の来場者数は約17%減少しています。

兵庫県によると、

『1月末に降った大雪により2月の入込数が安定したスキー場が多かった一方で、雪不足により管内スキー場の半数以上が1月中旬に一時休業などの対応を求められたほか、3月の平均気温が豊岡、兎和野高原で観測史上過去最高を記録するなど、春先にかけて気温の高い状態が続き、融雪が進んだため、例年より早く営業を終了し、前年度に比べ営業日が短い結果となった。』

とあります。

但馬エリアもまた、オープン日数の短期化により来場者数が伸び悩む結果となりました。

(2)スキー場来場者数に影響する様々な要因


上述の通り、スキー場の来場者が減少傾向にあります。
1,860万人もの日本国民がスキー場に足を運び、スキー・スノーボードを楽しんでいた時代から約30年を経て、その参加人口は280万人まで減少し、6分の1の規模となっています。

なぜスキー場への来場者の減少が続いているのか。
スキー・スノーボード参加人口の減少に影響している様々な要因について考察します。

①少子高齢化


スキー・スノーボードは比較的若者の参加が多いスポーツです。
少子高齢化の進行により、若者の人口が減少することで、スキー・スノーボード人口の減少に影響していると考えられます。

2021年のスキー・スノーボードの世代別参加率は以下の通りです。

【スキー・スノーボード世代別参加率】

(出典:『レジャー白書』)

スキーについては、10代において学校でスキー教室・スキー旅行でスキーを経験することもあり参加率が比較的高い傾向にあります。
また、50代以上については、かつてスキーがブームになっていた頃に楽しんでいたユーザーと考えられます。ただしこの年代のユーザーが今後年齢を重ねることにより参加率が低下することが考えられます。

スノーボードについては、若者の参加率が比較的高い傾向がスキー以上に顕著です。

このように若者の参加率が比較的高いスキー・スノーボードは、少子高齢化の進行によりその参加率の低下が進んでいると考えられます。

②レジャーの多様化


近年は様々な娯楽が増えています。
特にインターネットやスマートフォンの普及により、オンラインにより手軽に楽しめる娯楽が増えています。

スキーやスノーボードは遠くまで出かける必要があるうえ、ウエアや道具を揃えるのが面倒であり、費用が高いことから敬遠されるようになりました。

ケガのリスクもあり、寒い思いをすることもまた、足が遠いている一因と言えるでしょう。

このような、時間とお金と手間のかかるレジャーは、スキー・スノーボードに限らず参加率が低下し、その他の様々な娯楽に人口が分散しているものと思われます。

③新型コロナウィルス


2020年以降の新型コロナウィルス感染症の拡大によりスキー場来場者数が大きく減少しました。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用により営業が制限されたほか、ユーザーのマインドが低下し、レジャー業界全体に影響しました。

国内のスキーヤー・スノーボーダーの減少もさることながら、それ以上に海外のスキーヤー・スノーボーダーが激減しました。

④インバウンドの増加


日本国民の少子高齢化がスキー・スノーボード人口の減少に影響を与えている一方で、海外からのスキー・スノーボード来訪者は増加傾向にあります。
その傾向が特に顕著なのが、北海道ニセコ町と長野県白馬村です。

【北海道ニセコ町の外国人観光客入込状況の推移】

(出典:ニセコ町観光商工課 https://www.town.niseko.lg.jp/resources/output/contents/file/release/881/10190/R3irikomi_foreigner.pdf

【HAKUBA VALLEY外国人スキーヤー来場者数の推移】

(出典:一般社団法人 HAKUBAVALLEY TOURISM  https://www.hakubavalley.com/cms/wp-content/uploads/2022/05/220418_HVT-annual-repourt_vf.pdf

外国人来訪者は、コロナ前10年間において、ニセコ町は約2倍、白馬村は約4倍の規模に増加しています。
外国人が占める割合も上昇傾向にあり、コロナ直前において、ニセコ町で13%、HAKUBA VALLEYで29%の水準でした(ニセコ町・HAKUBAVALLEY TOURISMそれぞれの公表数値より算定)。

コロナ禍において外国人来訪者は激減しましたが、コロナの収束とともに外国人のスキーヤー・スノーボーダーは復活するものと期待されます。
中期的にはコロナ禍前の水準を上回る規模に増加する可能性も考えられるでしょう。

⑤温暖化に伴う暖冬小雪


近年、世界的に問題になっている地球温暖化。
降雪・積雪がないとスキー・スノーボードを楽しむことができませんので、地球温暖化の進行は重要な課題となります。

地球温暖化は日本の気温にどのように影響しているかを見てみましょう。

【日本の年平均気温偏差】

(出典:気象庁HP https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html

「2022年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は+0.60℃で、1898年の統計開始以降、4番目に高い値となりました。日本の年平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年あたり1.30℃の割合で上昇しています。特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。」

世界全体で見ると、及び日本全体で見ると、平均気温が上昇傾向にあることは確かです。

では、地球温暖化はスキー場における降雪や積雪にどのように影響しているのか、それによりまたスキー場利用者数にどのように影響しているのか、について、以下検証していきます。

(3)降雪量はスキー場来場者数に影響するのか


スキー・スノーボードのシーズンは、降雪とともにスタートし、融雪とともにシーズンの終わりを迎えます。
そのため、スキーヤー・スノーボーダー、そしてスキー場事業者のみなさんは、毎年12月頃には降雪状況が気になり、3月~4月頃春先には雪がいつまでもつか気になるところです。

雪が降らなければスキー場は営業できません。そのためいつスキー場がオープンできるか、ユーザーとしても気になるし、事業者としても大きな関心ごとです。
降雪によりスキー場の稼ぎ時がスタートする、という意味では、言葉を選ばずに言えば、スキー場事業者にとって「雪が降ってくる」=「お金が降ってくる」と感じられるくらい、恵みの雪であり、常に降雪の状況が気になるものです。

①降雪量と索道利用者数の相関関係は?


降雪量と索道利用者数との間にどのような相関関係があるのか、ないのか。
実際にデータ検証してみました。

降雪量については、気象庁の無人観測施設である「地域気象観測システム(アメダス)」のデータを使用しました。
気象庁ホームページに毎時で情報提供されるためこれを用いて降雪量を12月~3月の合計で集計しています。

集計対象とした地点は索道利用者数が多い都道府県の中から抽出したスキー場集中地域6地点です。

6地点と周辺の主なスキー場は以下の通り。

倶知安(北海道倶知安町):ニセコ・ルスツ・キロロ・札幌国際etc
藤原(群馬県みなかみ町):たんばら・川場・尾瀬岩鞍・丸沼高原etc
湯沢(新潟県湯沢町)  :苗場・かぐら・GALA・石打丸山・神立・岩原・舞子etc
白馬(長野県白馬村)  :八方尾根・栂池高原・白馬岩岳・白馬五竜・hakuba47etc
長滝(岐阜県郡上市)  :高鷲・ダイナランド・鷲ヶ岳・めいほう・ウイングヒルズetc
豊岡(兵庫県豊岡市)  :ハチ高原・ハチ北高原・神鍋高原etc

②2022-2023シーズンの降雪は多かった?少なかった?


降雪量の推移は以下の通りです。

【12月~3月降雪量の推移】

(出典:気象庁HPより地域気象観測システム(アメダス)データ)

中期的な傾向をみると、直近30年間において降雪量は減少傾向にあります。
10年間平均で推移をとると、降雪量は減少傾向であり、特に2011年以降の減少傾向が顕著であることがわかります。

【10年間平均の降雪量の推移】

(出典:気象庁HPより地域気象観測システム(アメダス)データ)

次に、直近2シーズンの状況がどうだったか、見ていきます。

平年と比較した場合の2021年度(2021-2022シーズン)及び2022年度(2022-2023シーズン)の降雪量は以下の通りです。

倶知安(北海道倶知安町):2021年度  85%、2022年度86%
藤原(群馬県みなかみ町):2021年度  97%、2022年度58%
湯沢(新潟県湯沢町)  :2021年度104%、2022年度65%
白馬(長野県白馬村)  :2021年度101%、2022年度78%
長滝(岐阜県郡上市)  :2021年度  85%、2022年度51%
豊岡(兵庫県豊岡市)  :2021年度123%、2022年度65%

ここで「平年」は気象庁で定義している「1991年~2020年の30年間の平均」により算定しています。

昨シーズン2021年度(2021-2022シーズン)は概ね「平年並」だった一方で今シーズン2022年度(2022-2023シーズン)は多くのエリアで平年比で「降雪が少ない」シーズンだったと言えます。

今シーズンは「10年に一度の大寒波」が襲来した時期もありましたが、シーズントータルで見た降雪量はかなり少なかったことがわかります。

③降雪が増えると来場者数が減少するエリアもある?


次にいよいよ、降雪量と索道利用者数の関係を見てみましょう。

都道府県別の索道利用者数のデータは2007年度(2007-2008シーズン)以降の期間について入手できます。
ただしこのうち2019年度(2019-2020シーズン)以降はコロナ禍により著しく索道利用者数が減少しているため、本検証からは除外します。2018年度(2018-2019シーズン)以前において相関関係を調べました。

「降雪量」と「各都道府県の年間の索道利用者数」の相関係数を算定することで検証しています。

0.7≦相関係数       :強い正の相関関係
0.5≦相関係数<0.7     :正の相関関係
0.3≦相関係数<0.5   :弱い正の相関関係
△0.3<相関係数<0.3 :相関関係なし
△0.5<相関係数≦△0.3 :弱い負の相関関係
△0.7<相関係数≦△0.5  :負の相関関係
相関係数≦△0.7    :強い負の相関関係

まず、白馬(長野県)については、相関係数が0.61であり、「正の相関関係あり」と言えます。

【白馬降雪量と長野県索道利用者数】

次に、藤原(群馬県)・湯沢(新潟県)・長滝(岐阜県)・豊岡(兵庫県)については、相関係数がそれぞれ0.37、0.35、0.48、0.48であり、「弱い正の相関関係あり」と言えます。

【降雪量と索道利用者数(群馬・新潟・岐阜・豊岡)】

最後に、倶知安(北海道)については、相関係数が△0.77であり、「強い負の相関関係あり」と言えます。

【倶知安降雪量と北海道札幌索道利用者数】

倶知安(北海道)以外の5地域については、「正の相関関係」または「弱い正の相関関係」であり、概ね「降雪が多いシーズンは来場者が増え、降雪が少ないシーズンは来場者が減る」傾向にあると言えます。

一方で倶知安(北海道)については、「強い負の相関関係」であり、「降雪が多いシーズンは来場者が減り、降雪が少ないシーズンは来場者が増える」傾向が強い、という逆転現象が生じています。

その要因として1つ考えられるのが、インバウンドの増加です。
倶知安(北海道)近隣のニセコスキー場への海外来場者が増加傾向にあります。

【北海道ニセコ町の外国人観光客入込状況の推移】
(出典:ニセコ町観光商工課 ttps://www.town.niseko.lg.jp/resources/output/contents/file/release/881/10190/R3irikomi_foreigner.pdf

海外からのスキーヤーは、来場の予定を比較的早い時点で決めるケースが多いのではないかと推測します。
そのため降雪状況に左右されずに来場される傾向が強いのではないでしょうか。

次に、同エリアの国内の索道利用者数と降雪量の相関関係を検証しました。

各年度の「ニセコ町の外国人観光客の国内/海外比率」と「北海道札幌運輸局の各年度12月~3月の索道利用者数」から、「北海道札幌運輸局の各年度12月~3月の国内顧客索道利用者数」を推計し、これと降雪量との相関関係を調べました。

その結果、相関係数が△0.23であり、「相関関係なし」という結果になります。

【倶知安降雪量と北海道札幌国内索道利用者数】

少なくとも正の相関関係は認められないため、
北海道札幌運輸局、すなわちニセコエリアについては、
「国内のスキーヤー・スノーボーダーは、降雪量の多寡にあまり関係なくスキー場に来場している」と判断できるのではないでしょうか。

国内ユーザーが降雪量に関係なくスキー場に来場する理由について。

1つに、安定的に毎年一定の降雪があることが挙げられます。
先述のエリア別の降雪量の推移をみても、倶知安は藤原(群馬県)や湯沢(新潟県)とともに毎年安定的に一定以上の降雪量を記録しています。
記録的な暖冬小雪といわれた2015年度(2015-2016シーズン)や2019年度(2019-2020シーズン)においても、倶知安は安定的に一定以上の降雪があり、極端な雪不足にはなりにくいという特徴があります。

2つめに、低温という気象条件と地理的条件からの雪質の良さが挙げられます。

北海道は日本の中で高緯度に位置するため、比較的温度が低い地域です。

日本の降雪の代表的なパターンとして、寒冷で乾燥したシベリア気団が暖かい日本海を吹走することで海面から熱と水蒸気を補給して気団変質した空気が日本海側の山地を越える際に雪を降らせるのものがあります。
北海道は日本海上の吹走距離が本州と比較すると短いため、熱と水蒸気を補給して気団変質する度合いが本州と比較すると小さくなるため、本州と比較すると軽くサラサラした雪が降る傾向にあります。

このように、安定的な降雪と低温で乾燥した雪質の好条件を背景に、国内ユーザーが安定してニセコエリアのスキー場に来場していると推測します。

さらに海外ユーザーが増加傾向にあります。

これらにより、北海道の倶知安エリア(ニセコ)については近年降雪量が減少傾向にありながらスキー場への来場者数は増加傾向にある、と結論づけることができると考えています。

(4)スキー場事業者が知るべき天気予報


①降雪量の予想は可能なのか?


北海道以外のエリアについては降雪量と索道利用者数とで一定の正の相関関係があるという点は先述の通りです。

降雪量が増えることでスキー場がスキーヤー・スノーボーダーでもっと賑わうことを願うばかりです。

そのためには、「どうやったら降雪量が増えるか、降雪量が増えるためには何ができるか」という議論もあります。
しかしながらこの論点は地球温暖化への対策など、大がかりな議論となるため、本記事では割愛します。

本記事では、「降雪量の予想は可能なのか?どうやったら可能なのか?」という点を考えてみます。

というのは、降雪量と索道利用者数は一定の正の相関関係があることが多いため、そのシーズンの降雪量が多いか少ないかを予想することができれば、来場者数がある程度予想できると考えられます。

スキー場事業者にとっては、来場者数の多寡によって採るべき戦術が変わってきます。

予想される来場者数が多い場合には、積極的に売上を獲得することが可能と考えられます。新たな投資を行ったり、従業員の雇用を増やす等の戦術が選択肢に挙がります。

一方、予想される来場者数が少ない場合には、コスト削減を進めることで利益減少を抑えることが必要になります。アルバイトのシフト調整をしたり、リフトの稼働制限することで人件費や電気代を削減する等の戦術が選択肢に挙がります。

降雪量等の気象条件次第で採るべき戦術が大きく変わる中で、「どの期間」の天気予報を、「どのタイミングで」得ることができるのか、そしてその「精度」はどうなのか。

スキー場事業者が知るべき天気予報について、以下紹介します。

②短期予報(天気分布予報)


気象庁が発表する短期的な天気予報、それが「天気分布予報」です。

日本全国を一辺5kmの正方形のマス目にわけて、そのマス目の中の代表的「天気」「気温」「降水量」「降雪量」を1時間ごとに予報したものです。

1日3回、毎日5時・11時・17時に発表されます。

5時の発表において翌日終日の天気予報を発表しているため、約2日弱先の詳細な天気予報を確認することができます。

【天気分布予報】
(出典:気象庁HP)

一例として2023年5月9日11時発表の2023年5月10日9時~12時の天候の予報を添付しました。
これによると東日本以南の広い範囲で晴れ予報であり、北海道の一部で雨予報となっています。

続いて、天気分布予報の精度について、検証を行いました。

「倶知安」「湯沢」「白馬」「長滝」「豊岡」で2022-2023シーズンを対象に毎日ウォッチしました。

実況(実際の天気)は「地域気象観測システム(アメダス)」のデータが気象庁ホームページに毎時で情報提供されます。

こうして、各地点の各日の各項目を予報と実況で比較しました。
その結果、気温や降水・降雪量の多寡に多少のズレはありながらも概ね予報と実況とは近似する結果でした。

つまり、約2日弱先の天気について気象庁は精度の高い予報を行っているという所感を得ました。

今後は3日先や5日先まで精度の高い予報を出してもらえることを、個人的に期待しています。

なお、民間気象予報会社では3日先までの予報を出しているところもありますので、気になる方は民間気象予報会社の天気予報にも注目してみるとよいでしょう。

③長期予報(3か月予報、寒候期予報)


気象庁が長期的な天気予報を行うものとして、「1か月予報」「3か月予報」「寒候期予報」があります。

1か月予報:向こう1か月の「天候」「気温」「降水量」「降雪量」等の予報を週次で発表
3か月予報:向こう3か月の「天候」「気温」「降水量」「降雪量」等の予報を月次で発表
寒候期予報:12月~2月の「天候」「気温」「降水量」「降雪量」等の予報を9月に発表

スノーシーズン前からシーズン中にかけてこれら長期予報を継続的に確認するならば、以下のような流れになります。

9月:12月~2月の寒候期予報を確認
10月:11月~1月の3か月予報を確認
11月:12月~2月の3か月予報を確認
12月:1月~3月の3か月予報を確認
1月:2月~4月の3か月予報を確認

そして、上記の流れに沿って実際に2022-2023シーズンの寒候期予報・3か月予報の精度を検証しました。

【2022-2023シーズンの寒候期予報・3か月予報】

(出典:気象庁HP)

降雪量の予報について、「12月~2月の寒候期予報」「12月~2月の3か月予報」「1月~3月の3か月予報」「2月~4月の3か月予報」を並べ、時系列で追ったものです。

各回、各地域について、降雪量は継続して「ほぼ平年並み」「平年並みか多い」という予報でした。
なお、「平年」の定義は「1991年~2020年の30年間の平均」を意味します。

一方で実際の今シーズンの降雪状況は比較的少なかったことは先述の通りです。
2022年12月20日発表の3か月予報においても各地「平年並みか多い」という予報であったことから、2023年2月~3月の小雪や高気温については直前まで予報することは難しかったということが伺えます。

(5)暖冬小雪の“大敵”エルニーニョ現象に迫る


①エルニーニョ現象/ラニーニャ現象が与える影響とは


日本の気温や降水量等に影響を与える指標として、エルニーニョ現象/ラニーニャ現象があります。

エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖の海域の海水温が平年より高くなる現象であり、
ラニーニャ現象とは、南米ペルー沖の海域の海水温が平年より低くなる現象です。

エルニーニョ現象/ラニーニャ現象は世界規模での気候の特徴に大きく影響を与えると言われています。

中でもエルニーニョ現象/ラニーニャ現象が日本の冬期の気象に与える影響については、気象庁より以下の通り示されています。

【エルニーニョ現象/ラニーニャ現象発生時の気温・降水量】
(出典:気象庁HP https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/tenkou/nihon1.html

エルニーニョ現象が発生している場合は、北日本は低温傾向に、東日本以南は高温傾向になりやすく、ラニーニャ現象が発生している場合は、全国的に低温傾向になりやすいとされています。

②降雪量は増加するのか?減少するのか?


エルニーニョ現象/ラニーニャ現象発生時において降雪量は増えているのか、減っているのか、関係性を調べました。

【エルニーニョ現象/ラニーニャ現象と降雪量の関係】

(出典:気象庁HP)

このグラフは上下2つのグラフを並べて表示したものです。

上のグラフはエルニーニョ現象/ラニーニャ現象発生状況を示しています。
縦軸が海面温度の標準差であり、数値が高いほどエルニーニョ現象の傾向が強く、数値が低いほどラニーニャ現象の傾向が強いことを示します。
赤く塗られた期間はエルニーニョ現象の傾向が強い期間が一定期間継続している「エルニーニョ現象が発生している期間」とされ、水色に塗られた期間は同「ラニーニャ現象が発生している期間」とされています。

下のグラフは先述した各エリアの12月~3月の降雪量累計の推移です。

このように2つのグラフを並べてみると、
エルニーニョ現象が発生しているシーズンについては比較的降雪量が少なめ
ラニーニャ現象が発生しているシーズンについては比較的降雪量が多め
という傾向がみてとれるのではないでしょうか。

次に、エルニーニョ現象/ラニーニャ現象発生と降雪量について、相関関係を数値化しました。

横軸:海面水温差の4ヶ月(12月~3月)平均値
縦軸:12月~3月の降雪量合計

まず、豊岡(兵庫県)については、相関係数が△0.54であり、「負の相関関係あり」と言えます。

【豊岡降雪量との関係】

藤原(群馬県)・湯沢(新潟県)・白馬(長野県)については、相関係数がそれぞれ△0.36、△0.42、△0.30であり、「弱い正の相関関係あり」と言えます。

【藤原降雪量・湯沢降雪量・白馬降雪量との関係】

一方、倶知安(北海道)・長滝(岐阜県)については、相関係数がそれぞれ△0.06、△0.26であり、「相関関係ほとんどなし」と言えます。

【倶知安降雪量・長滝降雪量との関係】

北日本についてはエルニーニョ現象時もラニーニャ現象時も気温が低くなる傾向にある旨を先述しましたが、倶知安(北海道)の降雪量についてはエルニーニョ現象現象時とラニーニャ現象時とで傾向の違いがほとんど認められない、という結果になりました。

③エルニーニョ監視速報の精度はいかに?


エルニーニョ現象/ラニーニャ現象の経過と今後の予測について、気象庁が毎月公表しているのが、「エルニーニョ監視速報」です。

直近2023年4月の速報は以下の通りであり、2023年3月の実況と2023年4月~2023年10月の見通しを示しています。

2023年4月発表内容
・エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態になっている。
・今後、夏にかけて平常の状態が続く可能性もある(40 %) が、エルニーニョ現象が発生する可能性の方がより高い(60 %)。
(出典・2023年4月エルニーニョ監視速報)

スノーシーズンの12月を対象にした予測情報は8月において確認することができます。
翌月の9月については12月~1月を対象にした予測情報を確認でき、10月には12月~2月、11月には12月~3月を対象にした予測情報を確認することができます。

では、直近2022-2023シーズンの状況はどうだったか。
予測と実況、それぞれ見ていきます。

【エルニーニョ予測(2022-2023シーズン)】

(出典:気象庁エルニーニョ監視速報)

まず実況としては、2021年から継続していたラニーニャ現象について、
2022年12月までラニーニャ現象が継続し、
2023年1月においては「ラニーニャ現象が終息しつつある」状況となり、
2023年2月においては「平常」となりました。

それに対して予測はどうだったか。
エルニーニョ監視速報では、各月において「エルニーニョ現象発生(赤色)」「平常(黄色)」「ラニーニャ現象発生(青色)」それぞれの確率を百分比で示しています。

2022年11月発表の予測においては概ね2月まではラニーニャ現象が継続する旨の予測がされていたと見ることができます。
実況としては2023年1月には「ラニーニャ現象が終息しつつある」状況だったことから、
ラニーニャ現象が終息に向かう可能性は2022年11月頃から認識されていたが、終息の時期は実況が予測と比較して早まった」ととらえることができます。

2022年10月発表内容
・ラニーニャ現象が続いている。
・ 今後、冬にかけてラニーニャ現象が続く可能性が高い(90 %)。
 ・その後、冬の終わりまでに平常の状態になる可能性もある(40 %)が、ラニーニャ現象が続く可能性の方がより高い(60 %)
(出典・2022年10月エルニーニョ監視速報)

2022年11月発表内容
・ラニーニャ現象が続いている。
・今後、冬の半ばにかけてラニーニャ現象が続く可能性が高い(80 %)。
・その後、ラニーニャ現象は終息に向かい、春には平常の状態となる可能性が高い(70%)
(出典・2022年11月エルニーニョ監視速報)

次に、ラニーニャ現象が継続した2021-2022シーズンについて見てみましょう。

【エルニーニョ予測(2021-2022シーズン)】

(出典:気象庁エルニーニョ監視速報)

2021年8月時点の予測においては2021年12月や2022年1月にラニーニャ現象が終息する可能性を高く予測していました。
また2021年11月・12月時点の予測においては2022年3月にラニーニャ現象が終息する可能性を高く予測していました。
これに対して実際には、シーズンを通してラニーニャ現象が継続した結果となりました。

最後に、直近でエルニーニョ現象が継続した2018-2019シーズンについて確認します。

【エルニーニョ予測(2018-2019シーズン)】

(出典:気象庁エルニーニョ監視速報)

2018年8月時点の予測において2018年12月にエルニーニョ現象が継続する可能性を高く予測して以降、継続してエルニーニョ現象が継続する予測を発表し、実際にエルニーニョ現象がシーズンを通して継続する結果となりました。

以上の通り、エルニーニョ監視速報の予測は、一定期間を対象にしたエルニーニョ現象/ラニーニャ現象の傾向について予測を示しています。
エルニーニョ現象/ラニーニャ現象の始まり/終息を月単位でピンポイントで予測することは難易度が高いものであることが伺えます。

 

(5)まとめ

・降雪量は中期的に減少傾向にあり、かつ、2022-2023シーズンは平年比で降雪が少ないシーズンだった
・降雪が多いシーズンは来場者が増え、降雪が少ないシーズンは来場者が減るという相関関係あり(ニセコエリアは例外)
・気象庁が1日3回発表する天気分布予報により約2日弱先までの天気予報を確認しよう
・気象庁が9月に発表する12月~2月の寒候期予報を確認しよう
・気象庁が毎月発表するエルニーニョ監視速報、12月以降の予測を8月以降確認しよう

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

関連キーワード

関連記事

RELATED POST

PAGE TOP
MENU
お問い合わせ