中小企業庁が「成長産業」に認定!キャンプ場・グランピング業界の市場規模とは?

中小企業庁が運営し、中小企業の事業再構築を伴う新規事業に対して支援する補助金である「事業再構築補助金」。

2023年5月24日付で、一般社団法人日本グランピング協会の申請により、事業再構築補助金の「成長枠」対象業種に「キャンプ場・グランピング事業」が認定されました。これにより補助上限額が大きく引き上げられることになります。

この「成長枠」には、新規事業が「市場規模が10%以上拡大しているor将来拡大する」という要件を設けられ、補助金事務局による審査を通過する必要があります。

今回「キャンプ場・グランピング事業」が「成長枠」の対象として承認されたことはすなわち、中小企業庁が「キャンプ場・グランピング事業」を成長産業として認定したと解釈できます。

昨今、活況を呈しているキャンプ場・グランピング業界。
その市場規模はどれくらいなのでしょうか?独自に調査・検証しました。

 

(1)増加するキャンプ参加人口


2020年以降コロナ禍をきっかけに新しくキャンプを始めるユーザーが増えました。
従来からのコアなキャンプユーザーから最近始めたライトユーザーにまで広がりを見せています。

コロナ禍においては外出の制限や自粛があり、3密を回避する行動様式が広まりました。

その中で、オートキャンプは公共交通機関を使わず自家用車で移動し、広い屋外の空間で個人や家族単位で楽しめる3密状態になりにくいレジャーと言えます。

近年、さまざまな媒体でオートキャンプが取り上げられるようになり、日本国内におけるオートキャンプに対する関心や参加意欲が高まりました。

【オートキャンプ参加人口の推移(推定値)】
(出典:日本オートキャンプ協会『オートキャンプ白書2022』)

日本オートキャンプ協会の『オートキャンプ白書2022』によると、2021年のオートキャンプ人口(1年間に1泊以上オートキャンプをした人の数)は750万人でした。

前年の2020年においては、2020年4月・5月のゴールデンウィーク時期のキャンプ場の閉鎖が大きく影響し、2019年の860万人から約3割の減少し610万人でした。

2021年においては、コロナ前2019年の水準には戻りきっていないものの、2020年から約3割増加した結果となっています。

コロナ禍により加速しているキャンプブームですが、このブームはコロナの前から始まっていたと見ることができます。

ある単語のGoogleでの検索頻度のトレンドをグラフで見ることができるツール「Googleトレンド」において「キャンプ」というワードを検索すると、過去10年間で検索頻度が上昇傾向にあることがわかります。

【Google Trendsで「キャンプ」と検索】
注:Googleデータシステム変更あり
検索期間:2013/5/25~2023/5/25
(出典:Google Trends)

オートキャンプとともに近年注目が増しているのがグランピングです。

グランピングとは、「グラマラス(魅惑的な)」と「キャンピング」を掛け合わせた造語です(一般社団法人日本グランピング協会)。
テント設営や食事の準備などの煩わしさから解放されカジュアルに自然体験をできる宿泊施設のことをいいます。

「Googleトレンド」において「グランピング」というワードを検索すると、2016年以降検索数が伸び続け、2020年において検索数が跳ね上がっています。

グランピングについてもオートキャンプ同様にコロナ禍前から関心が高まっていた中で、コロナ禍での人気拡大はオートキャンプ以上であることが伺えます。

【Google Trendsで「グランピング」と検索】
注:Googleデータシステム変更あり
検索期間:2013/5/25~2023/5/25
(出典:Google Trends)

ここまで、「キャンプ」「オートキャンプ」「グランピング」といったワードを使ってきましたが、それぞれの意味やお互いの関係性について整理しておきます。

「オートキャンプ」は、自動車にキャンプ用品などを積んでキャンプに行くことをいいます。自動車には、キャンピングカーやキャンピングトレーラーなども含みます。

寝泊まりは車中泊かテントを張って行います。

「グランピング」は前述の通りカジュアルなキャンプであり、ベッドや水回りといったある程度の設備を備えた構造物において宿泊を行うものです。

構造物とは、コテージやトレーラーハウス、ドームテントといったものが含まれます。
構造物のうちバンガロー(簡易小屋)については明確に断言はできないながらも「グラマラス」のコンセプトに該当せずグランピングと言えないことが多いようです。

バンガローについては、一般社団法人オートキャンプ協会「オートキャンプ白書」において調査の対象としていることから、「オートキャンプ」のカテゴリに入ると解釈することもあります。

【キャンプのカテゴリ】

野外で一時的な生活をすることを広く意味するのが「キャンプ」です。
そして「オートキャンプ」や「グランピング」は「キャンプ」の一形態と位置付けられます。

 

(2)キャンプ場業界の市場規模に迫る

 

キャンプ参加人口が増加していますが、キャンプ場業界はどのように推移しているのでしょうか。キャンプ場業界の市場規模に迫ります。

①観光庁データより


公的なデータとして観光庁の旅行・観光消費動向調査の統計データがあります。

キャンプ場で宿泊する旅行での旅行消費額のうち、「旅行中」の、かつその中でも「宿泊費」の数字を引用しました。

この旅行消費額が、キャンプ場事業者としての売上高であり、すなわちキャンプ場市場規模であると解釈できます。

【キャンプ場市場規模と宿泊単価】
2012年については統計数値が異常値であると判断したため本グラフにおいて表示対象外としている。
(出典:観光庁旅行・観光消費動向調査)

これによると、

2010年176億円

から少しずつ市場規模が拡大し、

2017年250億円
2018年359億円
2019年470億円

とコロナ禍前に市場拡大がスピードアップし、

2020年357億円
2021年110億円

はコロナ禍で市場規模が縮小したものの、

2022年は著しい市場拡大により734億円まで成長

しています。

2022年は2019年比の156%の水準となっています。

ここまでの著しい増加となったことの要因として、1つは、コロナによる行動制限や外出自粛が抑制されたことがあります。

そしてもう1つには、グランピングの増加が挙げられるでしょう。

グランピングのコロナ禍後の広がりは著しく、オートキャンプの拡大と比較してもより急激に拡大をしていると考えられます。

本統計においてキャンプ場とは、明示はないものの、テント泊や車中泊に加えて、グランピングも含むと推測します。

キャンプ場・グランピング全体を対象にしているからこそ、2022年において市場規模が急拡大しているものと考えられます。

それを裏づけるものとして「キャンプ場旅行単価」があります。

同調査において「キャンプ場旅行単価」が2017年以降大きく増加しています。

2017年  5,291円
2018年  7,099円
2019年  8,345円
2020年  9,041円
2021年14,452円
2022年11,553円

これはグランピング等の高単価のキャンプ場が増加していることが要因と推測します。

②オートキャンプ協会データより推計


次に、もう1つの方法として一般社団法人オートキャンプ協会発表のデータから、オートキャンプ場の市場規模を推計します。

オートキャンプ協会が毎年発行している「オートキャンプ白書」において、以下のデータが示されています。

キャンプ人口 … 1年間に1泊以上オートキャンプをした人の数
平均人数 … 「今回のキャンプは何人で来ましたか」という質問に対する回答
延べ泊数 … 1年間でキャンプ場に泊まった泊数
利用料金 … テントサイト1区画料金(大人2+小学生2、繁忙期でない休前日のモデル料金)の全国平均

これらを用いると、市場規模は以下のように推計できます。

オートキャンプ場市場規模 = キャンプ人口 ÷ 平均人数 × 延べ泊数 × 利用料金

この算式にあてはめると、
2021年オートキャンプ場市場規模は、2022年オートキャンプ白書より、

キャンプ人口750万人 ÷ 平均人数3.4人 × 延べ泊数6.2泊 × 利用料金4,743円

オートキャンプ場市場規模649億円

と推計します。

同様の計算によると

2019年506億円
2020年454億円
2021年649億円

となります。

この推計によっても、「コロナ禍で落ち込んだ市場規模が回復し、コロナ禍前の水準を上回っている」状況が確認できます。

(3)キャンプ場の稼働率は右肩上がり

 

キャンプ場の稼働状況について見てみます。
『オートキャンプ白書2022』によると、2021年のキャンプ場の稼働率は20.4%でした。

【オートキャンプ場平均稼働率】
(出典:日本オートキャンプ協会『オートキャンプ白書2022』)

2020年においては、2020年4月・5月の緊急事態宣言により多くのキャンプ場が休業した影響により稼働率16.3%でした(2019年の17.5%から1.2ポイント低下)。

2021年の稼働率は2020年から比較して大きく向上し、2019年の17.5%を超えて過去最高の水準となりました。

なお、稼働率20.4%は「営業日数」ベースの数字です。
365日での平均稼働率は14.8%です。

このように、日本国内でのキャンプへの関心の高まりを受け、キャンプを楽しむ人が増え、キャンプ場の稼働率の上昇につながっています。

 

(4)相次ぐキャンプ場・グランピングへの新規参入

このようなキャンプ場業界の活況を背景に、新たにキャンプ場・グランピング運営に参入する事業者が増加しています。

『オートキャンプ白書』によると、オートキャンプ場の施設数は、

2019年1,276か所
2020年1,269か所
2021年1,309か所
2022年1,373か所

と発表されています。

グランピングについては、一般社団法人全国グランピング協会によると、国内に約350施設あります(2020年12月21日レポート)。

また、国内最大級のキャンプ場予約サイト「なっぷ」に掲載されている国内キャンプ場の数は4,923件(2023年5月25日時点)です。
オートキャンプ場以外のキャンプ場や、グランピング(キャンプスタイルの宿泊施設)も含まれています。

近年のキャンプ場の増加の要因の1つとなっているのが、「事業再構築補助金」です。

コロナ禍で苦しむ中小企業・中堅企業に対して、新分野への展開や業態変換を行う取り組みについて支援を行う補助金です。
事業再構築補助金の予算は、2021年度1兆1,485億円、2022年度6,123億円で実施され、今年度2023年度は5,800億円の規模で実施されています。

事業再構築補助金の採択事業については事業計画の概要が公表されているのですが、これを独自に調べてキャンプ場・グランピング事業の数を集計しました。

これまで発表されている第1回~第8回の合計で、

キャンプ場は381件、グランピングは658件の事業計画が採択を得ています。

このように、昨今のキャンプブームに乗り、補助金を活用してキャンプ場・グランピングの新規展開を始める事業者が増えています。
特にグランピングにおいて、現在の施設数に比較して採択事業が多い印象です。

これらの採択事例のうちの一部は既に開業しキャンプ場・グランピング施設の増加につながっていますし、また一部についてはこれから開業するケースも多く、今後もキャンプ場・グランピング施設の増加は続くと思われます。

今後は、ブームに乗るだけではない、本当に付加価値をもった事業を行っていくことが重要であると考えます。

ブームに乗って他社を模倣しただけの事業では、ブームが落ち着いたとき、事業者が増えすぎて供給過多になったとき、市場は飽和状態となり、淘汰が生じることでしょう。
他にない特色を出した事業運営を行うことが、一過性でなく長くビジネスを継続するポイントとなります。

「他者の模倣ではなく他とは違う価値を提供する」新規事業の事業計画を作成する。

これが、ビジネスとして継続することを可能とし、結果として補助金の審査においても高い評価を受けることになると考えます。

コロナ禍が収束するにつれ、ブーム化したトレンドが沈静化し、一時的に市場縮小、競争激化する可能性もあります。

アフターコロナを見すえ、インバウンド集客も考えておいた方がよいでしょう。
・空港からのアクセスの整備
・地域の観光やアクティビティとの連携
等、インバウンド顧客が「足を伸ばしたい」と思えるような対策を講じていくことも、今後の課題になると考えます。

(5)事業再構築補助金「成長枠」の活用で新規参入のチャンス

事業再構築補助金の応募枠のうちの1つである「成長枠」。

取り組む新規事業の業種・業態が「成長分野」であることが求められ、具体的には「取り組む事業が過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態」であることが要件です。
「成長分野」であることは業界団体が市場規模拡大の旨の証明を事業再構築補助金事務局に対して行い、承認される必要があります。

一般社団法人日本グランピング協会が「キャンプ場・グランピング」事業が成長分野であることの証明を行い、2023年5月24日付で承認を受けました。

今回「キャンプ場・グランピング事業」が「成長枠」の対象として承認されたことはすなわち、中小企業庁が「キャンプ場・グランピング事業」を成長産業として認定したことを意味します。

これにより、「キャンプ場・グランピング」事業に新規に取り組む場合には「成長枠」での申請が可能となり、事業再構築補助金の補助上限額が大きく引き上げられることになります。

【補助金上限額の比較】

事業再構築補助金を活用して「キャンプ場・グランピング」事業を新規に取り組むことを検討されている事業者にとっては大きなチャンスが到来したと言えるでしょう。

弊社では、ビジネスとして成り立つキャンプ場・グランピングの事業計画を策定し事業再構築補助金を活用して新規参入する事業者の皆様を積極的にご支援していますので、どうぞお声がけください。

セミナー情報はこちら

 

(6)まとめ

オートキャンプ参加人口は(オートキャンプ白書)
2019年860万人→2020年610万人→2021年750万人、とコロナ禍から復調傾向

キャンプ場・グランピング市場の市場規模は(観光庁統計)
2019年470億円→2020年357億円→2021年110億円→2022年734億円、と拡大傾向

オートキャンプ場市場規模は(オートキャンプ白書より推計)
2019年506億円→2020年454億円→2021年649億円、と拡大傾向

オートキャンプ場の稼働率は(オートキャンプ白書)
2019年17,5%→2020年16.3%→2021年20.4%、と上昇傾向

キャンプ場・グランピング市場規模拡大の追い風になっている「事業再構築補助金」、「成長枠」にキャンプ場・グランピングが認定されたことによりチャンスがさらに拡大

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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