【決算書クイズ】決算書比較、㈱スノーピークはどちら?

前々回の記事「アウトドアビジネス上場企業25社の財務情報まとめ」では、25社の財務情報の概要をまとめてお伝え、
前回の記事「アウトドアビジネス上場企業の業績を業種別分析」では、前回紹介した会社を対象に、
・企業規模の比較
・業種(アウトドア全般/キャンプ/釣り/自転車/ゴルフ/スキー・スノーボード)ごとの業績の推移
について、詳細に分析しました。

今回の記事では、上記で紹介した会社の中から2社をピックアップして、クイズを出題します。

2社の決算書を比較して、どちらの決算書がどちらの会社でしょうか?
楽しみながら考えてみてください。

(1)出題

2社の決算書を比較します。
A社・B社は、一方が株式会社スノーピーク、一方がグローブライド株式会社です。
どちらの決算書がどちらの会社でしょうか?

①2社の貸借対照表

2社の貸借対照表(連結)です。

 

②2社の損益計算書

続いて、2社の損益計算書(連結|営業利益まで)です。

 

さて、答えはわかりましたでしょうか?

 

(2)2社のおさらい

2社の概要についておさらいしましょう。

①株式会社スノーピーク

業種   :キャンプ
市場   :東証1部
直近決算 :2020年12月
売上高  :  16,764百万円
経常利益 :    1,551百万円
当期純利益:    1,048百万円
純資産  :  10,579百万円
総資産  :  16,866百万円
従業員数 :509人
時価総額 :159,997百万円

主力事業は、キャンプ用品を主としたアウトドア製品、アパレル製品等の開発・製造・販売事業。
自社ブランド「snow peak」をもち野外における衣食住の製品を幅広く展開しています。

自社工場(新潟県三条市)で製造するのは一部分であり、製造の大半を本社付近の新潟県燕三条地域の協力工場に委託し実質的にはファブレスメーカーです。
直営店国内33店舗+海外8店舗とオンラインストアで販売しています。
また、7か所のキャンプ場運営も行っています。

②グローブライド株式会社

業種   :釣り、ゴルフ
市場   :東証1部
直近決算 :2021年3月
売上高  :100,304百万円
経常利益 : 7,145百万円
当期純利益: 4,797百万円
純資産  : 27,577百万円
総資産  : 77,730百万円
従業員数 :6,965人
時価総額 : 87,720百万円

主要事業はフィッシング事業・ゴルフ事業、スポーツ事業です。
主に東京工場(東京都東久留米市)、ベトナムの工場で生産しています。

【売上高内訳】

フィッシング事業91,150百万円(90.9%)
…「DAIWA」ブランドの釣り具で世界トップ。

ゴルフ事業4,576百万円(4.5%)

…「ONOFF」「FOURTEEN」「RODIO」等。

スポーツ事業4,184百万円(4.2%)
…「Prince」(プリンス)ブランドのラケットスポーツ用品、「Corratec」(コラテック)・「FOCUS」(フォーカス)ブランドを中心としたサイクル用品

(3)ヒント

正解を導くために、2社の貸借対照表・損益計算書をどのような観点で比較したらよいか、ヒントをお伝えします。

①費用の内訳に注目しよう

まず1つ目のヒントは、損益計算書をご覧ください。

この損益計算書は、

売上高から費用(売上原価&販売費及び一般管理費)を差し引いた残りが営業利益になる

というシンプルなものです。

では、この損益計算書の中でA社とB社で異なる点はどこでしょうか?

そうです、「売上原価」と「販売費及び一般管理費」の割合が異なります。

「売上原価」:「販売費及び一般管理費」の割合が、
A社は「概ね2:1」、
B社は「概ね1:1」、
となっている点が異なります。

 

②棚卸資産の占める割合に注目しよう

2つめのヒントは、貸借対照表をご覧ください。

貸借対照表の中で、棚卸資産が総資産に占める割合が、A社とB社で異なります。
A社が約35%、B社が約10%です。

「棚卸資産」とは、いわゆる在庫のことであり、製造業である両社にとって、

棚卸資産 = 製品・商品(完成品) + 仕掛品(製造中のもの) + 原材料

となります。

つまり、「A社はB社に比較して在庫を多めに持っている」と見ることができます。

では、在庫を多く持ったり少なく持ったり、会社によって差が生じるのでしょうか?

この問いの答えを考えてみることが、クイズに答えるためのよいヒントになるかもしれません。

 

(4)正解と解説

①正解発表

正解は、

A社がグローブライド株式会社、B社が株式会社スノーピーク

です。

②解説

以下解説いたします。
なお、本内容は、公表されている情報をもとに私が分析し、個人的な見解を述べたものであります。
事実と相違する可能性がある点はご了承ください。

株式会社スノーピークとグローブラド株式会社とで、異なる点はどんなところでしょうか?

取り扱う商品・製品が、
株式会社スノーピークがキャンプ用品
グローブライド株式会社がフィッシング用品やゴルフ用品
という点は、確かに異なります。

しかしながら、取り扱う商品・製品の違い以外に、
「商流」の点で両者に相違点があります。

それは、

両社とも製造業であるが、商品・製品を販売する相手先に差がある、つまり販売形態が異なる

という点です。

商品・製品の販売の流れは、大きく以下の2パターンが考えられます。

(a)得意先企業に販売し、当該企業が最終消費者へ販売する
(b)直接最終消費者へ販売する

(a)の場合に当社が行う販売は「卸売」といわれ、「BtoB」の商流になります。

(b)の場合に当社が行う販売は「小売」といわれ、「BtoC」の商流になります。

結論を申し上げると、

株式会社スノーピークは、小売による販売の割合が比較的高いために、販売費及び一般管理費の割合が高い

と言えるのではないでしょうか。

 

③スノーピークの販売形態

株式会社スノーピークの販売形態は以下の通りです。

株式会社スノーピーク販売形態

(出典:有価証券報告書、IR資料)

株式会社スノーピークは、
直営店売上高割合が約30%、
自社販売スタッフが常駐している「インストア」という形態も含めると、
約59%について顧客への販売活動を自社で行っているということがわかります。

このように、直営店での販売、または自社スタッフによる販売活動を積極的に行っていることから、
費用の中での販売費及び一般管理費が占める割合が、高くなっていると考えられます。

 

一方で、グローライド株式会社の販売形態はどうでしょうか。

卸売と小売の内訳は、公表されているデータからは読み取ることができませんでした。

グローブライド株式会社においても、一部直営店舗で消費者向けに小売を行っているようですが、
おそらく株式会社スノーピークほどは小売は多くはない、と推測しています。

A社とB社を比較して、販売費及び一般管理費の割合が高いB社が、株式会社スノーピーク

 

③スノーピークが実現する短納期

もう1つ、このクイズの正解にたどり着くための方法が、貸借対照表の棚卸資産(在庫)に注目する点です。

上述のヒントにて、「A社はB社に比較して在庫を多めに持っている」ことを確認しましたが、

結論を申し上げると、

A社とB社を比較して、在庫の保有が少なめなのが株式会社スノーピーク

と言えます。

株式会社スノーピークは在庫の保有額が他社と比較して少ない水準です。

在庫の保有が多めか少なめかを示す分析として、回転期間分析というものがあります。

在庫が何か月で回転する(=販売される)か、というもので、

棚卸資産の回転期間(単位:ヶ月) = 棚卸資産残高 ÷ ひと月あたりの売上原価

で計算されます。

この数字は、株式会社スノーピークは2.8です。

すなわち、同社においては、「製品の製造を開始してから概ね2.8ヶ月で販売される」と言えます。

この数字はかなり短いという印象です。

他社の棚卸資産回転期間は以下の通りです。

棚卸資産回転期間比較

では、株式会社スノーピークの棚卸資産の回転期間が短いのは、なぜでしょうか?

それは、同社の生産拠点の立地条件が短納期を実現させているものと考えられます。

同社は新潟県三条市に本社を置き、新潟県見附市に自社工場を構えています。
メーカーの中には、日本各地に工場を構えていたり、海外拠点で製造を行っている会社も多くあります。
そういった会社と比較すると、生産拠点が新潟県の拠点に集中していることが、短納期に繋がっているのではないでしょうか。

さらに、同社の生産体制については、同社有価証券報告書における以下の記述にて言及されています。

 当社のアウトドア製品の品目数は、現在、約600品目あります。
このうち、当社の自社工場において製造している製品は焚火台シリーズのみであり、実質的にはファブレスメー カーであると言えます。当社の本社が所在しております、金属加工の産業集積地、燕三条がそれらの多岐にわたる製品を生産可能にしております。燕三条は燕市と三条市にまたがる新潟県の中央に位置する地域ですが、三条市は鍛造技術を用いた大工道具・刃物、燕市は洋食器・ステンレス製品をはじめとするモノづくりの街として知られています。自社製品約600品目のうち、その半分を占める金物類やテーブルウェア類の多くは、本社からほど近いところにある金属加工会社によって製造されております。
(出典:同社有価証券報告書)

すなわち、同社は近隣の金属加工会社による製造体制が構築されていることから、短納期を実現しているものと考えられます。

 

(5)まとめ

株式会社スノーピークは、メーカーとして製品を製造するとともに、直営店舗で小売を行っているため、費用額に占める販売費および一般管理費の割合が比較的高い

株式会社スノーピークは、新潟県に生産拠点を集約し、かつ近隣の金属加工会社による製造体制が構築されているため、短納期を実現しており、貸借対照表に占める棚卸資産残高の割合が比較的低い

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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