2020年キャンプ業界動向とキャンプ場運営事業の売上戦略

7月15日に日本オートキャンプ協会よりオートキャンプ白書2021(以下「白書2021」)が発行されました。
本書は2020年の国内のキャンプの状況を分析していて、「コロナ禍でキャンプ再発見」と副題が付されています。
本記事では、白書2021で取り上げている2020年の国内キャンプ市場の特徴を紹介するとともに、それをふまえて私なりのキャンプ場運営事業の売上向上戦略を考えてみます。

【1】オートキャンプ白書2021に見る2020年キャンプ業界の動向

(1)キャンプ人口

白書2021によると、2020年のオートキャンプ人口(1年間に1泊以上オートキャンプをした人の数)は610万人であり、2019年の860万人から約3割の減少となりました。コロナ禍により2020年4月・5月のゴールデンウィーク時期のキャンプ場の閉鎖が大きく影響した結果です。
国土交通省、観光庁発表の令和3年版「観光白書」によると、「日帰りを含む国内旅行者」の数は、前年の約50%となっていることから比較すると、キャンプ人口の前年比30%減という数字は、キャンプが「3密」になりにくいレジャーとして認識され、国内旅行等のレジャーよりコロナの影響が少なかったことを物語っています。

【グラフ①:オートキャンプ参加人口の推移(推定値】
(出典:オートキャンプ白書2021)

(2)キャンプ回数

白書2021によると、1年間でキャンプに行った回数は、平均4.6回であり、2019年の4.4回から0.2回増となりました。コロナ禍において回数が増加しているという結果もまた、キャンプ人気の高さを如実に示しているといえます。

同行者別の平均キャンプ回数は以下の通りです。

【表②:同行者別年間キャンプ回数】
(出典:オートキャンプ白書2021)

(3)オートキャンプ場の稼働率

白書2021によると、2020年4月は85.0%、5月は97.7%ものキャンプ場が休業をしたことが影響し、2019年の17.5%から1.2ポイント下がり2020年の稼働率は16.3%となりました。

【グラフ③:平均稼働率】

(出典:オートキャンプ白書2021)

(4)ソロキャンパーの増加

白書2021によると、2020年のキャンパーの傾向について調査した結果、最も傾向が大きかったのが、「ソロキャンパーが増えた」65.6%(2019年51.7%、2018年36.2%)であり、2017年から比較して3倍近く増加した結果となりました。

キャンプに限らず「ひとり旅」が増える傾向にあります。スマートフォンの普及により、一人でアウトドアを楽しみながらSNSなどを利用して他者とつながることで、一人気ままに過ごしたい願望を満たしつつ孤独感や不安感の緩和に繋がっていると言えます。

【グラフ④:キャンパーの傾向】

(出典:オートキャンプ白書2021)

白書2021によると、キャンプ同行者としては、
「子供連れ」54.6%(2019年57.2%)
が最も多く、以下、
「夫婦だけ」22.4%(2019年18.1%)
「他の家族と」21.7%(2019年23.9%)
そして4位に、
「1人(ソロキャンプ)は11.1%(2019年9.4%)と、1.7ポイントの増加となりました。

【グラフ⑤:同行者】
(出典:オートキャンプ白書2021)

(5)キャンピングカーの増加

白書2021によると、キャンピング車の登録台数は、2020年3月105,789台(2019年105,563台、2018年105,165台)から前年比1.2%増でした。
キャンピングカーは、ワンボックスカーを改造した「バンコンタイプ」と、トラックを改造した「キャブコンタイプ」が主流です。新車価格では600万円台からといわれています。一方で廉価なキャンピングカーとして軽自動車をベースとしたキャンピングカーが近年堅調に推移しています。2020年が2,644台であり(2019年2,484台、2018年2,281台)、前年比6.4%増となっています。軽自動車のキャンピングカーは価格帯も200万円前後でありキャンピングカーとしては安価であり、より身近に感じることができることから台数を伸ばしているようです。

【グラフ⑥:軽キャンピングカーの登録台数の推移】
(出典:オートキャンプ白書2021)

【2】キャンプ場運営事業の売上戦略を考える

ここからは私なりのキャンプ場運営事業の売上向上戦略を考えてみます。

(1)キャンプ場運営事業の売上高の構成

売上高を、構成する要素に分解して考えてみましょう。

売上高 = 1組当たりの売上高(単価) × 組数

このうち、組数は以下の通り分解できます。

組数 = キャンプ場総利用回数(延べ) × シェア

さらに、キャンプ場総利用回数(延べ)を分解。

キャンプ場総利用回数(延べ) = キャンプ人口 × キャンプ回数(頻度)

そうすると、売上高は、

売上高 = 1組当たりの売上高(単価) × シェア × キャンプ人口 × キャンプ回数(頻度)

という4つの構成要素に分解することができました。

【図⑦:売上高の構成】

(2)1組当たりの売上高について

白書2021年によると、
その内訳は、

①基本料収入(入場料・サイト料・AC電源)60.2%
②宿泊施設収入(キャビン・バンガロー・コテージ・常設トレーラー等)25.1%
③物品売上(売店等)6.2%
④イベント等の売上0.9%
⑤用品、用具のレンタル収入5.1%
⑥その他2.5%

となっています。

【グラフ⑧:収入の内訳】
(出典:オートキャンプ白書2021)

①+②がいわゆる宿泊売上であり、これがキャンプ場の売上の85%を締めるものになります。売上を増やしていくためには③~⑥のいわゆる付帯売上を増やしていくことも重要な施策になりますが、まずはメインの宿泊売上をどれだけ増やせるかが、売上高増加の主要な内訳を占めます。

その上で、どのように売上高を増やしていくか。白書2021をヒントに考えてみました。

(3)ソロキャンパーをターゲットにする


①ソロキャンパーは人口は少ないが、頻度が高い
【グラフ⑤:同行者】によると、ソロキャンパーの割合(11.1%)は低く、その人口は少ないものの、【表②:同行者別年間キャンプ回数】によると、ソロキャンパーの年間キャンプ回数は多いです。
1組当たりの売上高は、宿泊売上をメインとしており、宿泊売上は大人数でも1人(ソロキャンパー)でも同じ料金をもらうことになることから、同程度の水準となると考えられます。
以上より、組数を増やすためにソロキャンパーをターゲットに施策を組むということが戦略の1つとして挙げられます。

【図⑨:ソロキャンパーの傾向】

②インフルエンサーとして宣伝効果
ソロキャンパーは近年動画サイトをはじめ様々なメディアで注目を受けています。
キャンプそのものの認知度の向上や魅力の伝達に貢献してもらえる他、キャンプ場の宣伝効果も期待できると考えられます。

③平日利用
白書2021によると、どのような人が平日にキャンプ場をよく利用するかを調査すると、「ソロキャンパー」74.6%(2019年67.1%、2018年56.3%)でダントツでした。

【グラフ⑩:平日によく利用する人】
(出典:オートキャンプ白書2021)

平日利用を増やすことが、キャンプ場の運営を向上させるための有効な手段と考えられます。
キャンプ場は休日と平日との繁閑の差が激しいビジネスです。上記の通り年間の稼働率が16.3%ですが、これは年間を平均した数字です。休日と平日の稼働率はそれぞれ、休日が70~80%、平日が5%ぐらいと思われます。休日は予約が取れないほど混雑している一方で平日はガラガラな状態なのです。日本ではキャンプに限らずレジャーが休日に偏重しています。長期間休暇を取る習慣があまりなく限られた日にちにレジャーが集中してしまうという現状があります。

キャンプ場事業者としても、繁忙期と閑散期の両方ある中で繁忙期に合わせて設備を整えるために投資をしますし、繁忙期に対応できるような人員体制を整えます。閑散期には設備も人員も空きが生じてしまうのです。
そう考えると繁閑の差をできる限り少なくすることが経営効率上も重要になってくるのです。現状平日のキャンプ場稼働率が5%程度だとすると、これを例えば10%~15%程度にでも引き上げることができればキャンプ場の損益としては大きく改善することになります。
先述【グラフ④:キャンパーの傾向】のキャンパー傾向調査においても、「平日の利用者が増えた」という回答は3番目に多い結果となり、キャンプ場の平日利用が増えているということは、キャンプ場事業者にとってもよい傾向と考えられます。

キャンプ場事業者の皆さんは、どうやったら平日利用が増えるかの知恵を絞っていることと思われます。その一つの方策が、ソロキャンパーをターゲットにすることではないでしょうか。「平日によく利用する人」74.6%はダントツであり、仕事をリタイアしている方も多いであろう「シニア」の38.6%の2倍近い数字です。
ソロキャンパーがキャンプ場を平日に利用することにはどのような背景があるのでしょうか。仕事のお休みの日が平日なのか、昨今盛んになっているワーケーションを取り入れているのか、等の調査をしてみると見えてくるかもしれませんね。

(4)キャンピングカーユーザーをターゲットにする

ソロキャンパーの増加とキャンピングカーの増加は深い関係性があるかもしれません。
白書2021によるとオートキャンプに使う車として軽自動車は8.9%なのですが、これを同行者別に見ると、「1人(ソロキャンプ)」では、「軽自動車」が2019年の14.9%から30.8%と15.9ポイント上昇しているのです。
そう考えると、上述の通り軽自動車のキャンピングカーの台数が堅調に増加しているということと、ソロキャンパーの増加は密接に関係しているのかもしれません。

また、キャンピングカーユーザーの特徴をよく示しているデータが紹介されています。

【表⑪:キャンピングカー派とテント派との比較】
(出典:オートキャンプ白書2021)

キャンピングカー派は「平均回数」「平均泊数」ともにテント派より大きい水準であり、より頻度高くキャンプ場を利用するユーザーであります。
「キャンプ費用」を見てもキャンピングカー派はテント派の1.5倍の数字であり、より多くの消費をするユーザーということがわかります。キャンプ場にお金を落としてくれるかどうかはキャンプ場の取り組み次第と考えられます。「適切と考える平均料金」はテント派よりも低い数字ですのでキャンプ場の料金に対しては現状シビアな見方をされている方々ということが伺えます。

 

ソロキャンパーやキャンピングカーユーザーは増加傾向にあり、かつキャンプ場への売上貢献度が高い方々とも言えると考えられます。
これらのユーザー向けにサービスを向上することで、選ばれるキャンプ場に近づく可能性があります。
キャンプユーザーは増加している(需要面の増加)一方、キャンプ場事業者もまた増加しており(供給面の増加)、今後競争が激化していくことも考えられます。
他の事業者との差別化を強めていくための工夫が今後より求められることになるでしょう。

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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