【決算書クイズ】決算書比較、㈱あさひはどちら?

記事「アウトドアビジネス上場企業25社の財務情報まとめ」では、25社の財務情報の概要をまとめてお伝えし、
記事「アウトドアビジネス上場企業の業績を業種別分析」では、紹介した会社を対象に、
・企業規模の比較
・業種(アウトドア全般/キャンプ/釣り/自転車/ゴルフ/スキー・スノーボード)ごとの業績の推移
について、詳細に分析しました。

今回の記事では、上記で紹介した会社の中から2社をピックアップして、クイズを出題します。

前回に続き、第2問です。
前回第1問は、こちらをご参照。

2社の決算書を比較して、どちらの決算書がどちらの会社でしょうか?
楽しみながら考えてみてください。

(1)出題

2社の決算書を比較します。
A社・B社は、一方が株式会社あさひ、一方が株式会社ヒマラヤです。
どちらの決算書がどちらの会社でしょうか?

①2社の貸借対照表

2社の貸借対照表です。

 

②2社の損益計算書

続いて、2社の損益計算書(営業利益まで)です。

さて、答えはわかりましたでしょうか?

 

(2)2社のおさらい

2社の概要についておさらいしましょう。

①株式会社あさひ

業種   :自転車
市場   :東証1部
直近決算 :2021年2月
売上高  :69,456百万円
経常利益 :  7,326百万円
当期純利益:  4,717百万円
純資産  :32,496百万円
総資産  :45,287百万円
従業員数 :1,600人
時価総額 :35,451百万円

大型自転車専門店「サイクルベースあさひ」を展開(全国に472店舗の直営店と19店舗のFC店)。
店舗において自転車及びパーツ・アクセサリー等の関連商品の販売、各種整備及び修理等の付帯サービスの提供しています。

②株式会社ヒマラヤ

業種   :アウトドア全般、ゴルフ、スキー・スノーボード
市場   :東証1部
直近決算 :2021年8月
売上高  :62,133百万円
経常利益 :  2,215百万円
当期純利益:  1,412百万円
純資産  :15,119百万円
総資産  :40,048百万円
従業員数 :699人(2020年8月期)
時価総額 :12,222百万円

ゴルフ、キャンプ、ウィンタースポーツ用品小売。総合スポーツ用品店「ヒマラヤ」をチェーン展開。98店舗。

【売上高内訳】

一般スポーツ36,615百万円(58.9%)
アウトドア12,658百万円(20.4%)
ゴルフ10,103百万円(16.3%)
スキー・スノーボード2,754百万円(4.4%)

 

(3)ヒント

正解を導くために、2社の貸借対照表・損益計算書をどのような観点で比較したらよいか、ヒントをお伝えします。

①原価率に注目しよう

まず1つ目のヒントは、損益計算書をご覧ください。

この損益計算書は、

売上高から費用(売上原価&販売費及び一般管理費)を差し引いた残りが営業利益になる

というシンプルなものです。

今回は、「売上原価」と「売上高」の比率の違いに注目してみてください。

売上原価を売上高で割って算出されるのが、「原価率」です。

原価率(%) = 売上原価 / 売上高

原価率が、
A社は概ね50%、
B社は概ね64%、
となっている点が異なります。

 

②資産の占める割合に注目しよう

2つめのヒントは、貸借対照表をご覧ください。

貸借対照表の中で、「土地・建物・構築物」「差入保証金」が総資産に占める割合が、A社とB社で異なります。

A社:「土地・建物・構築物」26%・「差入保証金」約11%、計約37%
B社:「土地・建物・構築物」12%・「差入保証金」約7%、計約19%

多店舗展開する小売業である両社にとって、

「土地・建物・構築物」 … 店舗を構えるために取得した不動産
「差入保証金」 … 店舗の土地/建物を賃借するために差し入れている敷金/保証金

であります。

つまり、「総資産に占める店舗関連資産の割合が、A社はB社に比較して高い」と見ることができます。

では、店舗関連資産を多く持ったり少なく持ったり、会社によって差が生じるのでしょうか?

この問いの答えを考えてみることが、クイズに答えるためのよいヒントになるかもしれません。

 

(4)正解と解説

①正解発表

正解は、

A社が株式会社あさひ、B社が株式会社ヒマラヤ

です。

②解説

以下解説いたします。
なお、本内容は、公表されている情報をもとに私が分析し、個人的な見解を述べたものであります。
事実と相違する可能性がある点はご了承ください。

株式会社あさひと株式会社ヒマラヤとで、異なる点はどんなところでしょうか?

両社とも小売業である点では共通します。

一方、

他社ブランドを仕入れて販売するか、自社ブランドを販売するか

という点で両社に差があるのではないでしょうか。

結論を申し上げると、

株式会社あさひは、売上高に占める自社ブランド商品の割合が比較的高いため、原価率が比較的低い

と考えます。

③原価率の違い

自社ブランド商品は、他社ブランド商品と比較して原価率が低くなる、すなわち利益率が高くなります。

他社ブランド商品についてはメーカーのプロモーションコストや卸売業者のマージン等のコストを要するところ、自社ブランド商品についてはこれらを削減できることが要因です。

④両社の自社商品割合

株式会社あさひの自社商品割合については、同社有価証券報告書における以下の記述にて言及されています。

自社開発商品構成比率
当社自社開発による「確かな品質で値ごろ感のあるPB商品」の提供とともに、お客様最適の品揃えをコンセプトに、直営店におきましてはプライベートブランド(PB)商品とナショナルブランド(NB)商品の品揃え構成比率を各50%前後に保ってまいります。
(出典:同社有価証券報告書)

一方で、株式会社ヒマラヤの「他社ブランド商品売上:自社ブランド商品売上」比率はどうでしょうか。

この点、公表されているデータからは読み取ることができませんでした。

株式会社ヒマラヤにおいても、

・ビジョンクエスト(VISION QUEST) … スポーツ用品
・ビジョンピークス(VISION PEAKS) … アウトドア用品

といった自社ブランド商品を販売していますが、
おそらく株式会社あさひの50%と比較すると自社ブランド比率は高くない、と推測しています。

なお、同社においても自社ブランド商品について、有価証券報告書における以下の記述にて言及されています。

商品力の強化
自社商品をも含めた全体的な商品構成を最適化します。現在好調なアウトドアブランドである「VISION PEAKS」を始めとするPB(プライベートブランド)については、専任部署の設置と生産管理体制の強化を行い、ブランド価値を高めながら規模の拡大を図ってまいります。
(出典:同社有価証券報告書)

同社も自社ブランド商品の強化を重要課題として認識しています。

 

A社とB社を比較して、原価率が低いA社が、株式会社あさひ

 

⑤店舗関連資産の大小

もう1つ、このクイズの正解にたどり着くための方法が、貸借対照表の店舗関連資産に注目する点です。

上述のヒントにて、「総資産に占める店舗関連資産の割合が、A社はB社に比較して高い」ことを確認しましたが、

結論を申し上げると、

A社とB社を比較して、総資産に占める店舗関連資産の割合が高い方が株式会社あさひ

と言えます。

A社、B社ともに実店舗で小売業を行うことから、店舗を構えるに際して資産を計上することになります。

店舗を自社所有するのか賃借にするのかで計上される資産の種類は異なりますが、
店舗数が増えれば店舗関連資産の計上は増えることになります。

ここで、店舗数は、株式会社あさひが472店舗、株式会社ヒマラヤが98店舗であり、4倍以上の差があります。

両社の年間売上高が近似する水準であることを鑑みると、
2社を比較すると、「株式会社あさひの方が企業規模に比して店舗数が多い」と言えます。

すなわち、株式会社あさひは、店舗数が多いことから「土地」「建物・構築物」「差入保証金」という店舗関連資産の総資産に占める割合が比較的高いと考えられます。

 

(5)まとめ

株式会社あさひは、売上高に占める自社ブランド商品の割合が比較的高いため、原価率が比較的低い

株式会社あさひは、店舗数が多いことから「土地」「建物・構築物」「差入保証金」という店舗関連資産の総資産に占める割合が比較的高い

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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