CFOが踏むべきはアクセルか?ブレーキか?

車にはアクセルとブレーキがあり、アクセルを踏むと進み、ブレーキを踏むと止まります。アクセルとブレーキを使い分けることにより車は目的地へと進んで行きます。

会社運営についても同様のことが言えます。事業活動を進めるためにアクセルを踏み、スピードを緩めるためにブレーキを踏む。アクセルとブレーキをミックスすることにより事業活動が進み、会社が運営されます。

CFOというポジションは、会社のアクセルとブレーキのうち、ブレーキの役割を求められるケースが多くあります。
ブレーキを踏むということは、事業活動のスピードを緩めることにつながるため煙たがられることもあります。ベンチャー企業のような成長スピードを重視している会社では特にアクセル全開で進みながら不足しているリソースや機能を急いで間に合わせていることが多いのではないでしょうか。

会社運営においてブレーキを踏む機能を果たすにあたり、CFOはどのような役割を担うのがよいでしょうか。

(1)CFOはアクセルもブレーキも踏む



過去の記事「CFOとは」でもお伝えしましたが、CFOのミッションは「企業価値の向上」といえます。
企業成長のために必要なことは何かを考え、実行することがCFOの重要な役割です。

そのため、「リスクがある」と認識された場合、CFOはブレーキをかけることも1つの選択肢ですが、一方でリスクテイクしてアクセルを踏むことも1つの選択肢として考えるべきです。

「リスクがある」とブレーキをかけてばかりでは、ミッションは実現できません。

例えば、大きな投資を検討する場合には、どこまでリスクがとれるか、どのような投資をすべきか、そして投資資金をどのように手当てするのかといったバランスシート的な発想、そしてM&A等専門的な知識を要する戦略を含めて、どのように成功に導くかをCFOとしてまず考えるべきです。検討の結果「リスクがとれない」と判断する場合、ブレーキをかけることを検討するべきです。

 

(2)CFOがブレーキを踏むタイミングは?

 

CFOは、「企業価値の向上」というミッションのために最適なバランスでアクセルとブレーキを使い分けることが重要となります。
バランスは会社としてのバランスになりますので、組織としてのリスクへの感度や、CEOや他の経営陣のリスクへの姿勢によってCFOとしての対応も変わってきます。

例えばCEOや他の経営陣がアクセルを踏むばかりですと、CFOはブレーキを踏む割合が高まるかもしれません。CEOは、アントレナーシップが強い方が多く、ゼロから事業を成長させて来た実績や、幾多の困難を乗り越えた経験をお持ちのケースもあり、逆境の方が燃える、スリリングな意思決定を好まれる傾向があります。

 

(3)CFOがブレーキを踏むべき大きなリスク



CFOは、リスクとリターンを比較考量した結果、大きすぎるリスクについては、信念と根拠をもってブレーキを踏むことが重要です。冷静な分析力をもちながらも、ダメなものはダメと信念をもってNOと言えることが求められます。
CFOがブレーキを踏むべき「大きなリスク」というのはどのようなものでしょうか。

①資金を失うリスク


資金を失うことは、会社の存続に影響します。
会社の存続に関わるような大きな資金的インパクトがある場合はブレーキをかけるべきです。

例えば自社に資金余力が無い状態で回収の見込みが低い大きな投資をする場合が挙げられます。
他社から資金拠出を受けて投資を行う場合には、当該投資に対して回収を行い、資金拠出者へ還元することが求められます。すなわち将来においてキャッシュ・アウトするリスクがあります。当該将来キャッシュ・アウトが会社の存続に大きな影響を与えないでしょうか。

②顧客(信用)を失うリスク


法律・ルールから逸脱する場合、風評で済まないレベルで信用が棄損し、顧客を失うかもしれません。
会社は会社を取り巻く多くの利害関係者との関係の中で成り立っています。信用を得られることにより存在しています。その信用を大きく棄損する可能性がある場合はブレーキをかけるべきです。

主なものが法律・ルールからの逸脱です。近年はコンプライアンスへの意識が強くなっていて、法律・ルールから逸脱することにより信用が低下するリスクがより大きくなっていると考えられます。

例えば自社の業績をよく見せるための粉飾決算が挙げられます。粉飾決算を行うことにより会社の信用力や資金調達力が向上するかもしれません。一方で粉飾決算が発覚した場合には会社の信用力は地に落ちます。粉飾決算が発覚した後信用が大きく棄損した結果事業の継続が困難になり倒産した会社は、これまで何社も見てきました。

③事業・経営の権利を失うリスク


資本政策について、過去の記事
「Equity(出資)調達のポイントと資本政策」でお伝えした通り、場合によっては会社の意思決定権を失うリスクも孕みます。

その他、自社の事業の根幹の権利を阻害される可能性がある条項が入っている契約については、締結することに大きなリスクが残ることが考えられます。

上述のリスクは会社に重大な影響を及ぼすリスクがあるため、ブレーキをかけるべき状況となりえます。

 

(4)CFOがブレーキ役に適している理由

 

①視点の違い


CEOは、事業のためにどのような投資をしてどのような事業を展開していくか、という視点をもっています。
一方CFOは、投資によってどれくらいの利益が見込めるか、及び資金調達は可能か、という視点をもち財務戦略の立案を行います。
つまりカネをスタートに事業を見るというという意味でCEOとは異なる視点で事業を見ています。

前回の記事「CFOは関心ごと・使う言葉が異なるステークホルダーにどう対応するのか」でお伝えした通り、CFOは多くのステークホルダーの対応をし、社外からみた会社の評価に近い視点を持ち合わせています。CFOは異なる視点から客観的にCEOの意見に対して「目利き」する機能を果たしています。

②独立の立場


CEOがアクセルを踏んでいる時にCFOがブレーキをかけるということは、とても勇気の要ることです。
CEOはCFOにとっては上司としての存在でもあるので、CEOに「NO」と言うことは場合によっては自分の立場を危なくする可能性もあります。

社内での立場を心配してものを言うことができない経営幹部はブレーキ役となることはできません。独立していること。依存していないこと。極端にいえば、いつでも辞める覚悟をもって嫌われ役になることが必要ではないでしょうか。

CFOは財務の専門家であり、その知識・技能は会社・業界を問わず発揮できるケースが多いです。仮に会社を追われることになったとしても他のステージで活躍できる人材は比較的多い職種と考えます。
ダメなものはダメと信念をもって、時には自らの進退をかけてでも進言できる立場としてCFOが適任となるケースは多いのではないでしょうか。

(5)CFOのブレーキ機能


ベンチャー界隈を見るに、資金調達することで企業の価値が決まる要素が大きいと感じます。どこぞのベンチャー企業が数億円、数十億円資金調達してニュースになっているのをよく目にします。
資金調達を行うベンチャー企業がもてはやされ、その会社のCFOは功績として評価されます。CFOが尽力し資金調達に成功すればCEOも社員も喜びますし、社外からも評価されます。

一方で資金調達に成功した会社についても、身の丈に合わない無理な資金調達を行ったことで後々会社を苦しめることもあります。
特に金融機関からのデットファイナンスはいつかは返さなければならない資金です。

事業再生に従事する中でよくあるケースが、「あの時の無理な投資が窮境要因であり、今から思えばターニングポイントだった」というケースです。
会社の調子が良い時は気づかないが潮目が変わるタイミングはあるものです。
結果論にはなりますが、リスクを認識した上でブレーキをかける役割はやはり必要だと思います。

ブレーキをかけてもその時は誰も褒めてくれないかもしれません。
でもそれが正しかったことはいつか証明される日が来ることでしょう。

財務の専門家の中でも、企業の成長に関わっている、IPO等の専門家はリスクテイクの意識が強いと感じます。一方で企業の衰退に関わっている、事業再生等の専門家はリスク回避の意識が強いと感じます。

私はこれまでの自分のキャリアの中で企業の成長フェーズも衰退フェーズもどちらにも関与してきました。リスクテイクして成功した事例、失敗した事例、リスク回避して成功した事例、失敗した事例、数多く見てきました。

リスクをどれだけとって、どこでブレーキを踏むのかは難しい論点であり、正解はありません。その時の判断が正しいかどうかは後になってみないとわかりません。
CFOにとって重要なことは、冷静な分析力と熱い信念を持ち合わせ、会社のミッション・ビジョンと数字・お金のとのバランスを考えながら、アクセルとブレーキ使い分けることです。

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

関連キーワード

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP
MENU
お問い合わせ