中小企業の新市場・高付加価値事業への進出に対して給付される補助金「中小企業新事業進出補助金」の第1回公募が開始されました。
公募期間は2025年4月22日~2025年7月10日。
本補助金は、過去に公募を行っていた「事業再構築補助金」の後継の位置づけと言われています。
本記事では、中小企業新事業進出補助金について、事業再構築補助金との違いをふまえながら解説するとともに、アウトドアビジネスでの中小企業新事業進出補助金活用の可能性について考察します。
【この記事を読んでわかること】
・中小企業新事業進出補助金の概要
・事業再構築補助金との違い
・アウトドアビジネスの事業再構築補助金の活用状況
・アウトドアビジネスの中小企業新事業進出補助金活用のススメ
目次
(1)補助金制度の目的
補助金制度の中身を解説する前に、本補助金の目的を押さえておきたいと思います。
なぜなら、補助金の目的を押さえることは、「自らの事業が補助対象となるのか」という理解や、「どのようにしたら補助金が受けられるのか」という戦略に関わってくると考えるからです。
中小企業新事業進出補助金の目的は、以下の通り規定されています。
中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします。
要約すると、「中小企業の新規事業への進出を推進したい」というのが大きな趣旨です。
これは、事業再構築補助金の趣旨と同様のものであり、継続した政策の意図を読み取ることができます。
一方で、両補助金は、以下の点で狙いが異なっている面があります。
事業再構築補助金は、新型コロナウイルスの影響を受けて経営環境が悪化した中小企業が生き残りをかける策として新規事業に進出することで事業を再構築する(選択と集中)ことを支援する性質が強い補助金であった、と解釈しています。
一方で、中小企業新事業進出補助金は、中小企業が売上・利益を伸ばすことで企業規模を拡大すること、そして従業員の賃金を向上させることを狙った補助金という印象を受けます。
これは、昨今議論されているような、「小規模企業が林立している状況が競争力低下を招いているのではないか」「物価が上がっても給料が上がらないので生活が向上しない」といった課題に対する対応の一つとなっている、と理解しています。
以上をふまえると、本補助金は、新規事業に進出することで売上・利益を向上させて積極的に企業規模を拡大しようとしている会社にとってマッチする補助金であるとともに、新規事業進出で得た利益を十分に従業員に還元させることが求められている、と理解することが重要です。
後述する、補助金が求める「賃上げ要件」がまさにこの議論に関係してきます。
なお、事業再構築補助金の目的は以下の通り規定されていました。第1回公募と最終第13回公募のそれぞれについて掲載します。
事業再構築補助金第13回公募(2025年1月)
本事業は、ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰・地域サプライチェーン維持・強靱化又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
事業再構築補助金第1回公募(2021年3月)
本事業は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援します。
(2)補助対象者
ここからは具体的に補助金の中身について解説していきます。
まずは補助対象者についてですが、「資本金の金額」「常勤従業員数」について、規定された基準以下となる会社及び個人について、補助金の申請をできる対象者として規定されています。
「規定された基準」については公募要領に明記されています。概ね中小企業庁の定める「中小企業」の定義に沿ったものとなっています。
ここまでは従前の事業再構築補助金と概ね同様の内容なのですが、補助対象者として気になる点が、「過去に事業再構築補助金の採択を受けた事業者は中小企業新事業進出補助金を申請できるのか」という点です。
この点、過去に事業再構築補助金の採択を受けた事業者も中小企業新事業進出補助金を申請できます。
「申請できない」ケースとして以下が規定されていますが、以下に該当しない場合は「申請できる」と考えられます。
「申請できない」ケース
本補助金の申請締切日を起点にして16か月以内に事業再構築補助金の採択を受けた事業者
又は申請締切日時点において以下の事業再構築補助金の交付決定を受けて補助事業実施中の事業者
その他、審査基準において、
過去に事業再構築補助金を受給している場合、補助事業の直近の事業化状況報告等における事業化段階が3段階以下である場合は、減点を行う
旨が規定されています。
なお、「補助事業の事業化状況報告」とは、補助金交付後に毎年事業の状況報告を義務付けられている制度であり、その中の「事業化段階」は、
第1段階:製品の販売、又はサービスの提供に関する宣伝等を行っている。
第2段階:注文(契約)が取れている。
第3段階:製品が1つ以上販売されている、又はサービスが1回以上提供されている。
第4段階:継続的に販売・提供実績はあるが利益は上がっていない。
第5段階:継続的に販売・提供実績があり利益が上がっている。
と規定されています。
よって、過去に事業再構築補助金の採択を受けた事業者であっても、
・事業再構築補助金の採択を受けて相当程度の期間を経過している
かつ
・事業再構築補助金の「事業化状況報告」において、「第4段階」以上(=継続的に販売・提供実績がある)
であれば、中小企業新事業進出補助金の申請が可能である、といえます。
(3)補助額
補助額
従業員数20人以下:750万円~2,500万円(3,000万円)
従業員数21~50人:750万円~4,000万円(5,000万円)
従業員数51~100人:750万円~5,500万円(7,000万円)
従業員数101人以上: 750万円~7,000万円(9,000万円)
※ カッコ書きは、賃上げ特例の適用による補助上限額の引上げを受ける事業者の場合
賃上げ特例とは、「従業員の賃上げに関して、共通で課される要件よりも高い要件をクリアする計画を策定することで、補助上限額が引き上げられる特例」です。
「共通で課される要件」「賃上げ特例で課される要件」については後述します。
補助率:1/2
補助上限額は、賃上げ特例を適用する場合は最大で9,000万円の補助となります。
賃上げ特例を適用しない場合
従業員数20人以下:投資額5,000万円の1/2である2,500万円が補助
従業員数21~50人:投資額8,000万円の1/2である4,000万円が補助
従業員数51~100人:投資額1億1,000万円の1/2である5,500万円が補助
従業員数101人以上: 投資額1億4,000万円の1/2である7,000万円が補助
賃上げ特例を適用する場合
従業員数20人以下:投資額6,000万円の1/2である3,000万円が補助
従業員数21~50人:投資額1億円の1/2である5,000万円が補助
従業員数51~100人:投資額1億4,000万円の1/2である7,000万円が補助
従業員数101人以上: 投資額1億8,000万円の1/2である9,000万円が補助
なお、「従業員数」や「賃上げ特例適用是非」により補助上限額は変わるものの、応募枠自体はひとつです。
この点、事業再構築補助金では複数の応募枠が用意されていました。それぞれの応募枠において補助上限額や要件が異なっていました。
最後の第13回公募においては、「成長分野進出枠(通常類型)」「成長分野進出枠(GX進出類型)」「コロナ回復加速化枠(最低賃金類型)」の3つの応募枠があり、これに「卒業促進上乗せ措置」や「中長期大規模賃金引上促進上乗せ措置」といった上乗せ措置を適用するかしないかにより数多くのパターンが存在していました。
事業再構築補助金は、新型コロナウイルスの収束とともにその趣旨が少しずつ変動しそれに伴って枠が増えて行った印象がありましたが、今回中小企業新事業進出補助金については目的を今一度明確化したことで枠も一本化されたように見受けます。
次に、補助上限額について、事業再構築補助金と比較します。
事業再構築補助金においては、公募を重ねるにつれて補助上限額が減少傾向にありましたが、中小企業新事業進出補助金の補助上限額は事業再構築補助金最終第13回公募よりも増加しています。
(4)申請要件
中小企業新事業進出補助金に申請が可能となるために満たすべき要件の中で、注意が必要な主なものについて解説します。
①新事業進出要件
求められていることは大きく2つ、
・「新規」の事業を行うこと
・新規事業が一定規模以上となる計画であること
です。
新規性については、以下の通り規定されています。
製品等の新規性要件
事業を行う中小企業等にとって、事業により製造等する製品等が、新規性を有するものであること。
市場の新規性要件
事業を行う中小企業等にとって、事業により製造等する製品等の属する市場が、新たな市場であること。新たな市場とは、事業を行う中小企業等にとって、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性(法人/個人、業種、行動特性等)を持つ顧客層を対象とする市場を指す。
すなわち、「これまで取り組んでいなかったことに初めて取り組む」ことが求められます。
「新規かどうか」をどのように考えるか、については、事業を「ジャンル分け」して判断することを求める旨を「制度に関する補足資料」にて記載されています。
例えば、
ファミリー向けキャンプ場事業者がソロサイトを増設して、ファミリーではなく新しくソロ層を狙う
という事業が新規性を有するかどうか、考えてみましょう。
「キャンプ場」というジャンルよりもさらに細分化した、「ファミリー向けキャンプ場」と「ソロ向けキャンプ場」とでジャンル分けすることは不適切であり、この例では補助対象外になると考えられます。
次に、新規事業の規模については、以下の通り規定されてます。
新事業売上高要件
事業計画期間終了後、新たに製造等する製品等の売上高又は付加価値額が、応募申請時の総売上高の10%又は総付加価値額の15%を占めることが見込まれるものであること。
すなわち、会社全体の中で新規事業のウェイトが、売上高ベースで10%以上、または付加価値ベースで15%以上となる、相当程度の規模となる計画であることが求められます。
なお、これらの新事業進出要件については、採択後仮に目標値未達の場合でも、補助金返還義務は課されていません。
②付加価値要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%(以下「付加価値額基準値」という。)以上増加する見込みの事業計画を策定すること
付加価値要件についても、採択後仮に目標値未達の場合でも、補助金返還義務は課されていません。
③賃上げ要件
採択後に目標値未達の場合、補助金返還義務が生じますので注意が必要です。
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げを行うこと
(1)補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上増加させること
(2)補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を2.5%以上増加させること
④事業内最低賃金水準要件
採択後に目標値未達の場合、補助金返還義務が生じますので注意が必要です。
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業所内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること
(5)補助対象経費
補助対象となる経費(主なもの・注意を要するもの)
・機械装置・システム構築費
・建物費
・構築物(建物に付属・隣接するもの)
・運搬費
・技術導入費
・知的財産権等関連経費
・(検査・加工・設計等に係る)外注費
・専門家経費
・クラウドサービス利用費
・広告宣伝・販売促進費
補助対象にならない経費(主なもの・注意を要するもの)
・構築物単体
・車両及び運搬具
事業者再構築補助金との比較で注意したい点は以下3点です。
①建物
事業再構築補助金においても建物への投資が補助対象となっていましたが、建物の新築については、新築することの必要性を説明することが求められ、これが認められた場合のみ補助対象となっていました。
この点、中小企業新事業進出補助金においては、新築も改修も関係なく補助対象となる旨規定されています。
②構築物
事業再構築補助金においては構築物は補助対象外となっていました。
一方で、中小企業新事業進出補助金においては構築物は補助対象となりますが、以下の点に留意が必要です。
建物を補助対象として申請し、かつその建設・改修する建物に付随する構築物のみが対象となります。対象となる構築物は補助対象とする建物に付属又は隣接しており、一体的に使用されるものであることが必要です。
構築物の例
・塀
・柵
・看板
・プール
・キャンプ場や駐車場などの土壌工事
土地に手を入れたり構造物を据え付けたりする際の費用が「構築物」に該当します。
これらの費用を補助金対象として申請する場合は、「建物に付属又は隣接」した状態で投資する計画とする必要がある点に注意が必要です。
③車両
車両のうち、トレーラーハウスについてコメントします。
トレーラーハウスは、タイヤがついていて牽引することができる居住用のコンテナのことです。
グランピングなどの宿泊施設の居住スペースとして広く用いられています。
牽引して移動しますので、資産分類は「車両」となります。
事業再構築補助金において、車両は汎用的なものは補助対象外である一方で、トレーラーハウスについては補助対象となっていました。
中小企業新事業進出補助金においては、トレーラーハウスを補助対象とする旨の規定はなく、すべての車両を補助対象外とする旨の規定となっていますので、トレーラーハウスへの投資については補助対象外となります。
グランピングや宿泊施設を検討される方はご注意ください。
(6)アウトドアビジネスでの活用
最後に、アウトドアビジネスでの中小企業新事業進出補助金の申請を検討されている方に向けたお話をします。
「アウトドアビジネスで中小企業新事業進出補助金は可能なのか?採択可能性は高いのか?」
というご質問にお答えしたい。
①事業再構築補助金のアウトドアビジネス採択数の推移
事業再構築補助金の採択数のうち、独自にアウトドアビジネス関連の事業計画をカウントして集計したグラフを以下に示します。
第5回公募まではアウトドアビジネスで採択された事業計画の数は多く、特にキャンプ場・グランピングについては合わせて200件近くが採択されていました。
これが、第6回公募以降は大きく数を減少させています。
背景は、一時過熱していたキャンプ場やグランピングの新規開業の波が落ち着いてきたことが大きいと思われます。
また、そもそも全体の採択数も減少傾向にありますので、以下に示します。
②事業再構築補助金の全体の採択数の推移
事業再構築補助金の全体の採択数の推移グラフを以下に示します。
第6回公募以降、申請数・採択数ともに大きく減少傾向にあります。
採択率についても、一時期は50%を超える水準にありましたが、直近第12回公募においては26.5%となっており、ピーク時の半分の水準となっています。
③アウトドアビジネスの採択は十分狙える
一時期、事業再構築補助金の申請において、キャンプ場・グランピングの事例が大きく増えました。中には、ブームに乗って他社を模倣しただけの計画も相当数含まれ、採択されたのだと、推測しています。
そのような質の低い計画については厳格に審査をしていくという傾向になっているものと考えられます。
一方で、他社との差別化が十分になされ、成長が見込まれる魅力のある事業計画については十分に採択の可能性はあると考えています。
とくに、キャンプ場・グランピング事業については、中小企業庁が「成長産業」に認定していて、事業再構築補助金の申請上も、「成長分野進出枠」の適用が認められていました。
こちらの記事に詳細を解説しています
成長分野に新規に進出し、その事業計画がしっかりと練られたものであれば、中小企業新事業進出補助金は十分採択を狙えると考えます。
事業再構築補助金よりも中小企業新事業進出補助金の方が補助上限額が上がっています。新規事業進出のリスクがより軽減されているともいえます。(事業再構築補助金採択件数の減少傾向は、補助上限額の低下傾向に影響を受けているのかもしれませんね)
中小企業新事業進出補助金を活用してアウトドアビジネスにチャレンジを検討してみてはいかがでしょうか。
弊社では中小企業新事業進出補助金の申請支援を行っています。
事業再構築補助金の申請支援においてはアウトドアビジネスの7件の採択事例についてご支援させていただいております(採択率:7/9=78%)。
ご相談を多数承っていますので、検討される事業者様はご連絡くださいませ。