コロナ禍におけるマリン業界、ボート免許新規取得者が急増のワケ

新型コロナウィルス感染症によりマリンレジャー業界も影響を受け、参加人口や市場規模が縮小しています。

そのような中でも、今モーターボートや水上オートバイ等のプレジャーボートの免許を新規取得する方が増加しています。
プレジャーボートを所有して楽しんでいるのはシニアや高所得者が多いというイメージがありますが、近年はプレジャーボートの楽しみ方にも変化が起きています。

ファミリー層や年齢の若いユーザーも増加傾向のマリン業界について近年の動向をまとめました。

(1)マリンレジャー参加人口

 

マリンレジャー参加人口推移
(出典:公益財団法人日本生産部本部「レジャー白書」より作成)

海水浴人口は、2002年の2,370万人から、2020年には270万人にまで減少し、18年間で約10分の1になっています。
減少の要因は、レジャーの多様化や日焼けの敬遠等の理由が挙げられます。
また、2011年には東日本大震災の影響により海に対して「危険」「怖い」という意識を持つ人が増えたことが影響し、参加人口は前年から約4割減の910万人になりました。
2020年には新型コロナウィルス感染拡大により、閉鎖した海水浴場もあるなど、参加人口は前年から約5割減の270万人になりました。

釣り人口は、2002年の1,670万人から、2020年には550万人にまで減少し、18年間で約3分の1になっています。

2014年に670万人にまで減少して以降コロナ前の2019年までは横ばい傾向が続き、近年は下げ止まりの状況でした。
近年は釣りを楽しむユーザーの層に変化が見られます。
従来は年配の男性に人気のイメージがあった釣りですが、近年は若者の間で影響力のあるインフルエンサーがインスタグラムやYouTubeで釣りの様子を投稿するなどにより、釣りがより身近なものに感じられるようになりました。

ダイビングの参加人口は、2010年の180万人から、減少傾向にあり、2020年は50万人でした。

サーフィンの参加人口は、2005年の180万人から、減少傾向にあり、2020年は40万人でした。

ヨット・モーターボートの参加人口は、2003年の100万人から、減少傾向にあり、2020年は60万人でした。

2020年の新型コロナウィルス感染拡大により、ダイビングとサーフィンは前年比で参加人口が減少しましたが、一方でヨット・モーターボートは前年比で参加人口が増加しています。
コロナ禍においてヨット・モーターボートレジャーが注目を受けています。

(2)マリンレジャー市場規模

 

マリンレジャー市場規模
(出典:公益財団法人日本生産部本部「レジャー白書」より作成)

釣具の市場規模は、1997年の2,950億円から、2020年には1,650億円にまで減少し、25年間で6割以下の水準になっています。
2011年に1,500億円にまで減少して以降コロナ前の2019年までは微増傾向が続き、近年は下げ止まりの状況でした。

近年は「匂いが臭い」「餌や魚に触りたくない」などの釣りのネガティブなイメージを払拭するアイテムが販売されたり、100円ショップでも釣り具が販売されているなど、初心者や若者の間にも釣りが広がりをみせています。

海水中用品の市場規模は、1996年の2,060億円から、2020年には1,220億円にまで減少し、24年間で6割程度の水準になっています。

(3)ボート免許取得者推移

(1)においてお伝えした通り、新型コロナウィルス感染拡大した2020年においても、ヨット・モーターボートは前年比で参加人口が増加しています。
コロナ禍においてヨット・モーターボートレジャーが注目を受けていることは、新規ボート免許取得者の推移にも表れています。

新規ボート免許取得者の推移
(出典:一般社団法人日本マリン事業協会)

・一級小型船舶 … プレジャーボート|全ての水域
・二級小型船舶 … ブレジャーボート|海岸から約9㎞以内の水域
・二級小型船舶(湖川小出力限定) … 比較的小さな船舶|湖川限定
・特殊小型船舶 … 水上オートバイ

ボート免許の取得者は、2011年度以降2019年度までは微増傾向であり、2019年度は2011年度比119%の57,258人でした。
2020年度は71,975人であり、2019年度比で126%の水準と大きく増加しました。

4種類の免許のうち一級小型船舶は、二級小型船舶操縦士免許を既に取得していて航行区域を広げるためのステップアップとして取得するケースが多いと言われています。
この「ステップアップ」組は、2020年新規取得者が前年比で130%と増加しています。
一方、残りの「二級小型船舶」「二級小型船舶(湖川小出力限定)」「特殊小型船舶」は全くの「新規取得層」であり、これらは2020年新規取得者が前年比で124%と増加しています。

新規で小型船舶免許を取得してマリンレジャーを楽しもうとしているユーザーが増加傾向にあることを示しています。

(4)プレジャーボート保有隻数



国内のプレジャーボート在籍船隻数は、
2000年度の44万隻をピークに減少傾向で、2020年度は2000年度比約5割の22万3,000隻まで減少しています。
カテゴリー別では、モーターボートが2000年度比48%の15万4,000隻、水上オートバイは同比57%の6万隻、ヨットは同比69%で9,000隻となっています。

プレジャーボート在籍船隻数の減少要因は、オーナーの高齢化や、船舶の老朽化に伴い維持管理が困難になったことによる売却・処分の増加が挙げられます。

国内在籍船数の推移
(出典:日本小型船舶検査機構(JCI))

(5)プレジャーボート国内市場規模

 

プレジャーボートの国内出荷額の推移は以下の通りです。

プレジャーボート国内出荷額推移(モーターボート、PWC(水上オートバイ)、船外機)
(出典:一般社団法人日本マリン事業協会)

2020年は約271億円であり、2010年の約144億円と比較して188%となっています。
2010年から2018年までは増加傾向にありましたが、2019年・2020年は頭打ちの状況です。

モーターボートは2020年は2010年比269%と大きく増加しています。

PWC(水上オートバイ)については、2017年は2010年比で189%の水準まで増加しましたが、以降は減少傾向となり、2020年は対2017年比73%となりました。

船外機(駆動装置・かじ・燃料タンク等)は比較的一定の水準で推移を続けています。

(6)プレジャーボートメーカーの業績推移

 

プレジャーボート製造大手のヤマハ発動機株式会社では、船外機や水上オートバイを製造販売しています。
売上高の90%以上が海外への販売であり、特に北米への売上が50%以上を占めています。

ヤマハ発動機㈱「マリン事業」業績推移
(出典:ヤマハ発動機㈱有価証券報告書)

2020年12月期は上期に新型コロナウィルス感染症の影響を受け、工場を一定期間操業停止したことにより売上を落としましたが、2020年12月期下期から2021年12月期にかけてアウトドア需要の増加により販売台数を大きく伸ばしています。

スズキ株式会社においても、船外機を製造しています。
ヤマハ発動機株式会社と同様に、同社も売上高の90%以上が海外への販売であり、北米への売上が50%以上を占めています。

スズキ㈱「マリン事業他」業績推移
(出典:スズキ㈱有価証券報告書)

同社のマリン事業は堅調に推移し、コロナ禍の2021年3月期においても売上高・営業利益を前年比で増加させています。

(7)広がるレンタルボートサービス

「Sea-Style」は、ヤマハ発動機㈱が運営している会員制マリンクラブであり、同社のボート販売ネットワークを活用して、北海道から沖縄まで全国約140カ所と海外2カ所のホームマリーナでボートがレンタルすることができます。ボートレジャー人口拡大を目指して2006年4月からサービスを開始しました。
フィッシング、クルージング、マリンプレイなどの様々なニーズに対応するレンタル艇や、ホームマリーナの立地と季節に合わせた多彩な「海遊びメニュー」を提供しています。

Sea-Style会員数・利用回数推移
(出典:一般社団法人日本マリン事業協会)

一般社団法人日本マリーナ・ビーチ協会によると、会員数は2020年に対前年比104%の伸びを見せ、2万6千人を超えました。
利用回数は、2020年4月~5月の間に新型コロナウィルス感染症拡大に伴い利用停止としていたにもかかわらず対前年比111%と大きく伸び、3万回を超えました。

2021年7月までのデータでも、会員数は対前年比112%で推移しています。
同利用回数は、前年の一時利用休止の影響もあり、対前年比192%と大きく伸ばしています。

プレジャーボートは「シニアや高所得者が楽しむレジャー」というイメージがありましたが、Sea-Style担当者によると「近年はファミリー層や年齢の若い顧客も増えている」とのことでした。
自分でプレジャーボートを所有するのはハードルが高くても、レンタルサービスが充実することにより気軽にプレジャーボートやマリンレジャーを楽しむことができるようになってきています。

(8)まとめ

 

国内のマリンレジャー人口やマリンレジャー市場は縮小傾向にあり、新型コロナウィルス感染症の影響も大きい中で、ヨット・モーターボートは前年比で参加人口が増加に転じています。

新規で小型船舶免許を取得してマリンレジャーを楽しもうとしているユーザーが増加傾向にあります。

ボートのレンタルサービスも広がっており、ボート免許さえ取得できれば気軽に利用ができる仕組みが整ってきたことも追い風になっています。

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・気象予報士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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