アウトドアビジネスを悩ませる天候リスクと対応策

アウトドアビジネスは気候、天候、天気の影響を受けます。

メーカーの場合は、スキー・スノーボードを例にすると、地球温暖化という気候変動により、スキー・スノーボードのユーザーが減少し、スキー・スノーボード用品の需要減少の影響を受ける可能性があります。

施設運営事業者については、「気候」に加え、日々の「天気」に影響を受けます。
例えば、キャンプ場やゴルフ場では、週末の稼ぎ時に雨が降ると予約のキャンセルが相次ぎ、売上が大きく減少してしまいます。
スキー場に関しては、暖冬による小雪のシーズンにおいては営業日数が大きく減少することもあり、逆に豪雪に見舞われた場合はスキー場へのアクセスが絶たれてやはり売上が大きく減少することもあります。

近年は地球温暖化の進行等の影響により異常気象の頻度が高まっていると言われています。
梅雨の長期化、集中豪雨、猛暑、冷夏、暖冬、小雪等が発生することにより、アウトドアレジャーの機会の減少につながるリスクがより増大していると言えます。

さらには、台風、地震、洪水といった大規模自然災害が発生した場合には、一時的な影響にとどまらず、アウトドアレジャーを楽しむ場所そのものが失われてしまう可能性さえもあります。

(1)スキー場運営における天候リスク

天候リスクを受けやすいアウトドアビジネスの中でも、特にリスクが大きいといえるのが、スキー場運営ではないでしょうか。

降雪・積雪があって初めて成り立つビジネスです。仮に降雪・積雪がゼロの場合は売上がゼロになってしまいますし、逆に極端な豪雪が発生した場合には災害や事故の可能性もあり、ビジネスに大きな影響を及ぼします。

スキー場運営会社である日本スキー場開発㈱の売上高と利益の推移をグラフにしました。

第2・第3四半期売上高(11月~4月)と通期経常利益の推移

(出典:有価証券報告書より集計)

売上高はウィンターシーズンのみを集計するため期間を第2・3四半期(11月~4月)とし、利益は通期の経常利益を引用しています。

直近2期間(2020年7月期と2021年7月期)は新型コロナウィルスの影響を受けて売上高・利益が大きく減少しています。
一方、それ以前で売上の増減の推移を見て目に留まるのが2016年7月期です。
2016年7月期の第2・3四半期の売上高は、前年の4,888百万円から8%程度減少し、4,487百万円となっています。
当該期には運営施設が1施設増えているにも関わらず売上高が前年比で減少しています。
ウィンターシーズン来場者数について、同社IR資料より、当該増加1施設の影響を除外して既存7施設をベースに比較すると、1,274千人となっており、これは前年の1,560千人から18%程度減少しました。

2016年7月期のウィンターシーズンにおいて大きく来場者数・売上高が減少した要因が、「50年に1度」とも言われた大暖冬・小雪です。
このシーズンは、「史上最大規模」ともいわれたエルニーニョ現象が発生し、日本全国で記録的な暖冬・小雪となりました。
日本中の多くのスキー場において、営業日数や営業範囲の大幅な縮小を余儀なくされました。
1シーズンのうち数日間しか営業できないスキー場も多くありました。
その中においては日本スキー場開発㈱のウィンター売上高の減少は8%程度にまで抑えており、同社の営業施策が暖冬による影響を緩和しているように見受けられます。また、大きく減益しながらも通期でプラスの経常利益を計上している点は、機動的なコスト削減等の施策が奏功したことが推測されます。

(2)売上高が減少に対応するために費用を変動費化

突発的に発生する自然災害に完全に対応するのは難しいかもしれませんが、天候や天気のリスクを抑えるための方法は考えられます。

天候・天気の影響を受けて売上が減少した場合に、何も対策を行わなければ利益は大きく減少してしまいます。
一方で売上が減少した場合にそれに応じて費用も低減させることができれば、売上減少による利益減少の影響を抑えることができます。
売上の減少に応じて費用を減少させる、すなわち費用の変動費化です。
売上の増減に関係なく一定額発生する固定費ではなく、費用を売上高の増減に応じて発生する変動費とすることができれば、天候や天気の影響を受けて売上が減少した場合でも費用の発生を抑えることで利益の減少を抑えることができます。

費用のうち比較的高い割合を占める人件費については、売上の増減に応じて人員体制を調整できることが重要です。
アルバイトについては売上の増減に応じて弾力的にシフトを組む体制を構築・運用しておきましょう。
また、正社員については、一定規模の組織体であれば、必要に応じて部署をまたいで繁閑の波に対応する体制や、複数の事業所がある組織においては人事異動やローテーションにより各事業所を補い合う仕組みが重要になります。
そのためには部署間のコミュニケーションを円滑にしてお互いを助け合う組織風土を醸成するとともに、機動的な意思決定と柔軟な対応を可能とする組織運営も大事なポイントになります。

(3)天候デリバティブによる金銭的リスク低減

天候リスクにより企業が損失を被った場合に金銭的な保証によりリスクを低減する方法として、天候デリバティブが挙げられます。

天候デリバティブとは、異常気象や天候不順によって企業が被る損失を軽減するために、気温、降水量、風速、積雪量や降雪量等の気象庁が公表する天候データを用いて指標をつくり、「あらかじめ契約で定められた指標」の値と、「実際の気象現象によって発生した指標」の値との差異に応じて、金銭の受取を行う取引です。

例えば

・多雨・少雨・強風・弱風 ⇒ 降水量/風速を指標とした天候デリバティブ
・低温・高温 ⇒ 気温を指標とした天候デリバティブ
・多雪・少雪 ⇒ 降雪量・積雪量を指標とした天候デリバティブ

等が挙げられます。

このように、気温・風・降水・降雪等の様々な指標が異常気象や天候不順により通常の値と大きく乖離する値となった場合には金銭を受け取ることができます。
天候デリバティブは保険会社ごとに商品設計をしています。
自社の状況を説明することで会社ごとに最適な商品を設計・提案してもらうことも可能です。

一方で天候デリバティブは金融商品であり、当該金融商品を購入するために支出が生じます。そして、無事に異常気象や天候不順等が発生しなければ、当該金融商品購入相当分の支払をするのみとなります。
その意味では掛け捨ての保険のように、「有事には保険金を受領でき、何事もなければ保険料を支払うのみ」という性質があります。

そこで、天候デリバティブを検討する際には、購入のための支出額と、有事の際の金銭受取額とのコストパフォーマンスを検討する必要があります。
1年中といった長期間に渡って対象にすると支払額が極端に大きくなるとも考えられるため、期間を絞って商品設計する等の工夫が重要です。
たとえば設定期間を、サマーシーズンであれば、ゴールデンウィークやお盆の期間といった最繁忙期に、ウィンターシーズンであれば、年末年始や1月・2月の3連休といった最繁忙期に絞るといった方法が考えられるでしょう。

(4)有価証券報告書記載例

最後に、アウトドアビジネス企業の有価証券報告書上で、「事業等のリスク」に気候・気象について記載している事例を紹介します。

①㈱スノーピーク

気候変動に関するリスク
当社グループの取扱商品は主にアウトドア用品である為、気候、天候の影響を受けます。製品力の強化、販売促進活動等により当該影響を低減させるべく努めておりますが、台風や竜巻の増加、梅雨の長期化、異常気象といわれるほどの猛暑の場合は売上の減少を招き、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱スノーピーク2020年12月期有価証券報告書)

②㈱シマノ

気候変動の激化による天候不順、大規模自然災害の頻度上昇に伴うアウトドアレジャーである自転車や釣具に関する製品の需要減退
(出典:㈱シマノ2020年12月期有価証券報告書)

③㈱ティムコ

季節変動と自然災害の影響について
当社の商品は自然の中で使用するものが多く、季節性の高い商品が含まれていることから、冷夏や暖冬などの異常気象や、地震及び洪水または渇水などの自然災害などにより、当社の業績に影響を与える可能性があります。
(出典:㈱ティムコ2021年11月期有価証券報告書)

④㈱ワークマン

異常気象による影響について
当社で取り扱っている商品には、天候により販売数量が大きく左右される季節商品や雨具類が一部含まれております。そのため、販売時期に冷夏・暖冬・空梅雨など異常気象が発生した場合、商品に対する需要が低下し、売上の減少と過剰在庫などを招き、当社の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱ワークマン2021年3月期有価証券報告書)

⑤㈱アルペン

季節的変動、および自然災害の発生について
当社グループの商品は、一般スポーツ部門(競技スポーツ、アウトドア、スポーツアパレル等)、ウィンタースポーツ部門、ゴルフ部門から構成されておりますが、季節的変動の影響を受けております。当社グループは、近年、冷夏や猛暑、暖冬や集中豪雨といった異常気象とも言える天候要因での販売不振が度々発生し、店舗における収益性の低下を招いています。
当社グループといたしましては、商品構成の変更、自主企画商品の拡充、商品力の強化、および仕入・在庫コントロール精度の向上等により季節的変動の影響を低減させることに努めております。ただし、想定を超えた異常気象や、大地震、台風等の大規模自然災害の発生は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱アルペン2021年6月期有価証券報告書)

⑥㈱ヒマラヤ

気象状況による売上変動リスク
当社グループが取り扱うスポーツ用品の販売は、気象状況による影響を受けます。特にスキー・スノーボードなどのウィンター用品の販売は、降雪量の多寡等によって変動いたします。当社グループでは、ウィンター用品以外の売上構成比を上昇させ、これらの影響の軽減に取り組んでおりますが、気象状況の変動が、当社グループの財政状態および経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱ヒマラヤ2021年8月期有価証券報告書)

⑦㈱ゴルフ・ドゥ

気候など自然に関する環境
屋外スポーツであるゴルフ関連市場は、気候変動の重要度が年を追うごとに増しております。近年、甚大な自然災害が発生しており、今後も猛暑、台風、豪雨及び地震などによる自然災害が発生する可能性があります。自然災害の発生によりゴルフ関連市場が縮小する場合、当社グループの従業員及び店舗などが被害を被った場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱ゴルフ・ドゥ2021年3月期有価証券報告書)

⑧㈱ゴルフダイジェスト・オンライン

季節変動及び天候によるリスク
ゴルフは屋外スポーツであるため、気候の穏やかな春・秋にゴルフプレー者数は増加し、気候の激しい夏・冬に減少する傾向があります。このため、当社グループの四半期ごとの経営成績は、これら季節変動の影響を受ける可能性があります。また、冬場における予想外の降雪や夏場における台風または落雷等により、ゴルフ場の営業日数や利用者数が変動し、当社グループのゴルフ用品販売はゴルフ場送客人数等に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱ゴルフダイジェスト・オンライン2020年12月期有価証券報告書)

⑨リソルホールディングス㈱

天候・災害について
当社グループが運営するホテル、ゴルフ場等の直営施設におきましては、季節に合わせた割安の企画・プランを提案することにより、常に施設稼働率の向上に努めており、また、コスト面におきましては、経費の変動費化や施設人員の生産性向上の徹底を図る等、稼働率が低下した場合でも収益を確保できるよう対策を講じておりますが、長期にわたる天候不順、事業運営に支障をきたす大規模な災害等が発生し、施設の稼働率が大幅に低下した場合は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。
(出典:リソルホールディングス㈱2021年3月期有価証券報告書)

⑩日本スキー場開発㈱

天候に関するリスク
当社グループはスキー場を運営しており、小雪によりスキー場の営業日数が減少する場合、また、予想を超える豪雪等、スキー場へのアクセスを阻害する道路事情の悪化により、来場者が減少する場合に、売上高が減少します。また、グリーンシーズンの事業においても、雨天の場合、ツアー旅行中止により、来場者が減少する場合、売上高が減少します。これらのように天候が想定通りでない場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、豪雪や大雨等が発生した場合、安全性を確保するため、リフトを停止させるなどの措置を講じますが、リフトの停止内容によっては、リフト券の払い戻しが発生し、売上高が減少する可能性があります。
なお、小雪への対策として、人工降雪機の導入を積極的に実施し、安定した積雪量と営業日数を確保することや、グリーンシーズンの事業強化により差別化を図ってまいります。
(出典:日本スキー場開発㈱2021年7月期有価証券報告書)

⑪㈱バリューゴルフ

天候、季節変動及び自然災害
ゴルフは屋外のスポーツ・レジャーであり、天候や季節変動による影響を受けます。台風、梅雨、猛暑、降雪などの時期には、ゴルフ場の利用人員数が減少する季節変動があります。また、プレー当日の悪天候によっては予約のキャンセルが発生する場合もあります。さらに台風災害や大雪等が発生した場合には、ゴルフ場が一次閉鎖され、復旧や再開まで相当の期間を要することも予想されます。
したがって、こうした要因が発生した場合にはゴルフ場の利用人員数が左右される結果、「1人予約ランド」の集客実績に応じた従量課金が増減し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(出典:㈱バリューゴルフ2021年1月期有価証券報告書)

 

そとCFO公認会計士 村瀬功

そとCFO公認会計士 村瀬功

日本で唯一のアウトドアビジネスに特化した社外CFO

1980年富山県生まれ、広島県育ち。東京大学経済学部卒。公認会計士・認定事業再生士。経営革新等支援機関。
社内にCFOが居ない中小・ベンチャー企業に対して社外の立場からCFO機能を担う、日本で唯一のアウトドアビジネス専門の社外CFO。
「豊かな自然の中での非日常体験は人生を豊かにする」と価値を信じ、アウトドアビジネスの健全な発展に寄与することが自らの使命と感じている。

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